相続財産で外車を購入…問題はさらに複雑化
私はいまいち理解できなかった。他の家と競うならともかく、家庭内で見栄を張ってもしょうがないだろうと思ったからだ。
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「あとは、車ですね」ダンディーさんが言う。
「車、ですか」「ええ。次男はずっと国産の中古車に乗っていたのですが、奥さんが相続したお金で新車に買い替えたんです」「高い車ですか」「そう思います。外車ですからね。次男も、最初は車なんかいらないって言っていたのですが、まんざらでもなさそうでした。自分は車をもらった。手ぶらでは帰れない。そういう思いもあるのだと思います」
「もしかして、奥さんも見栄を張る人なのですか?」「どちらかというと、そうですね。裕福な家に育ったこともあり、プライドが高いのでしょう。外車にしたのも、ご近所さんや友達の目を気にしたのだと思います。その点でみれば、似た者夫婦です」長男はそう言って笑った。
問題の全景が見えたような気がした。1000万円欲しいというのは、次男の要望であると同時に、次男の妻の要望でもあるのだろう。妻の親が亡くなり、相続でまとまったお金が手に入ったことにより、夫婦はちょっとした贅沢を味わった。外車に乗ったりすることで自己満足を得て、それが快感になった。だから、今回ももらえるものはしっかりもらいたい。夫婦の間でそういう意思が固まったのだろうと思った。
それからしばらくの間、ダンディーさんから連絡はなかった。「この間のダンディーさん、あれからどうなったんでしょうかね」スタッフが聞く。「さあねえ。頑張って次男を説得したんじゃないのかい? 見栄を張ろうにも、お金がなければ仕方がないから」「そうですね」私たちはそう思っていた。
しかし、実際は違った。久しぶりにダンディーさんから電話があり、私は問題がさらに複雑化していることを知った。「もう一度会って相談したい」電話口でダンディーさんが言う。私は何かあったのだろうと察し、早速事務所に来てもらうことにした。
「先生、例の相続の件なんですが」事務所の椅子に座るやいなや、長男が切り出した。「うまくまとまりましたか?」「いえ、それが困ったことになりまして」長男が口ごもる。