「簡単に言えば、相続でもめそうな一家がありまして」
知り合いの弁護士から電話がかかってきたのは、まだ肌寒さが残る4月の初めの頃だった。
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「先生、弁護士のスーさんから電話です。相談があるそうで」電話を取った事務所のスタッフが言う。私は嫌な予感がした。スーさんとは付き合いが長く、年は私より少し下だ。仕事でもプライベートでも仲よくしているが、彼の「相談」や「お願い」はとにかく面倒なものが多いのである。
「はいよ」私は警戒しながら受話器を取った。
「センセイ、ちょっとお願いがあるんですが、手を貸してもらえませんか」スーさんがさっそく切り出す。「また面倒な案件を抱えたな?」「いやいや、面倒じゃないです。センセイの腕があればちょちょいと片付く話なんですよ」
「本当かよ」私は疑った。「本当です。簡単に言えば、相続でもめそうな一家がありまして、その税務処理を引き受けていただけないかと思いまして」「あ、さっそく噓をついたな。もめそう、じゃなくて、もうもめているんだろう」
「さすがセンセイ、察しがいい。顧客の1人から相続の配分について相談を受けたのですが、どうやら3兄弟のうちの1人が『もっとよこせ』と言っているらしいのです。とりあえず、相談者にセンセイのことを紹介しますので、話だけでも聞いてあげてください」スーさんはそういうと、言いたいことだけ言って電話を切ってしまった。
「相続のもめごとですか?」スタッフが私に聞く。「そうらしい。取り分を巡って兄弟でもめてるんだとさ」「引き受けたんですか?」「引き受けさせられたよ」「いつものことですね」スタッフはそう言って笑った。そろそろスーさんとの付き合い方を考えなければならない。私は割と本気でそう思った。