不動産のオークションにおいて、該当の物件に関する問題やトラブルがないか検証しておくことは極めて重要です。売買の際、所有者の本人確認や売却の意志の本気度といった基本的な部分をスルーしてしまうと、取り返しのつかない事態に陥ることがあります。本記事は『増補改訂版 不動産は「オークション」で売りなさい』(幻冬舎MC)より一部を抜粋、再編集したものです。

不動産の権限にかかわる「法的な問題」を確認する

以前紹介した記事『土地の高値売却…境界線問題解決の奥の手「カミソリ分筆」とは』『土壌汚染、アスベスト…ワケあり不動産の高値売却テクニック』では、不動産オークションで高値売却を実現するための事前準備としての三つのチェックポイント、

 

(1)物的な欠陥や問題点がないか

(2)法的な欠陥や問題点がないか

(3)後々トラブルになりそうな種はないか

 

のうち、(1)の物的な欠陥や問題点について取り上げました。本記事では、(2)の法的な欠陥や問題点について解説します。

 

土地そのものが抱える問題以外に、法的な問題のある土地も高値売却からは遠ざかってしまいます。法的な問題は大きく分けて「私法上の問題」と「公法上の問題」という二つの面があります。

 

私法上の問題とは、不動産の権限に関わる法律上の問題です。例えば、次のようなものがあります。

 

①売主が真の所有者か

②売主に本当に売る意思があるか

③代理人がいる場合は、代理権を持っているか

④相続財産の売却では、売主として相続人がすべて把握されているか

⑤私道に面している場合、私道所有者の通行および掘削の承諾が取れているか

⑥借地権・底地・借家権はどうなっているか

 

一つずつ詳しく見ていきましょう。

「地面師」に騙された事件も…所有者の確認は念入りに

①売主が真の所有者か

 

近年、東京都内の中心地で大手ホテルチェーンや大手ハウスメーカーが、地面師から12億円だったり63億円だったりを騙し取られたという事件が報道されています。

 

地面師という言葉を初めて聞く方もいるかもしれませんが、所有者になりすまして他人の土地を売却し土地代金をだまし取る詐欺師のことです。

 

不動産の移転登記をするには、不動産の登記済権利証あるいは登記識別情報、売主の印鑑登録証明書、売主の本人確認書類(運転免許証、パスポート等)が必要ですが、地面師はこれらを偽造して本人になりすまします。

 

運転免許証とパスポートについては、前者は平成21年4月1日から、後者は平成18年3月20日からICチップが埋め込まれていますので、ICカードリーダーで記載内容を読みとることができます。したがって、IC化された運転免許証、パスポートは偽造、変造が難しくなっています。

 

そこで、売主が真の所有者か確認する手段として、運転免許証やパスポートを必ず提示してもらうということは有効です。また、売主が売買不動産の過去数年の固定資産税納税通知書を持っているか、売買不動産を取得した経緯を矛盾なく回答できるか、複数の本人確認書類(年金手帳、健康保険証等)を提示できるかを確認するという方法もあります。要するに、本人しか持っていない物を確認して調査を尽くすことが必要です。

 

所有者になりすまして他人の土地を売却し土地代金をだまし取る詐欺師
所有者になりすました「地面師」を見破るには、本人確認書類が有効

売り主の意思能力に疑問符がつけば、契約も白紙に…

②売主に本当に売る意思があるか

 

売主に意思能力があるかどうかも問題となります。裁判で意思能力がないと判断されればその時点で売買契約は無効となってしまうからです。

 

そこで、売主の判断能力が不十分な可能性がある場合、後見人、保佐人、補助人等成年後見制度の利用も検討する必要があります。

 

売主がすでに高齢者であるという場合には、後見人や保佐人が選任されていれば、後見人や保佐人と売買契約をしないと有効な契約ができないので、後見登記簿で後見人、保佐人が登記されているか、いないかを確認する必要があります。

代理人が本当の「代理権」を持っていない場合も

③代理人がいる場合は、代理権を持っているか

 

代理人が本人からの委任状を持っているからといって、必ずしも有効な代理権を持っているということにはなりませんので注意が必要です。

 

つまり、本人が本当に代理人に代理権を与えたか確認する必要があるということです。形式的にも委任状の委任者の住所氏名は自筆で、実印が押印されていることが必要です。場合によっては、本人に面談して本当に代理権を与えたか確認することも必要です。

相続財産は「共有」されているケースがあり、要注意

④相続財産の売却では、売主として相続人がすべて把握されているか

 

相続財産を売却したいという場合には、相続人全員の合意が必要になることがあります。というのも相続財産は、相続人全員で共有するケースが数多くあるからです。そのような共有財産となっている時には、共有者の1人でも反対する人がいると、その不動産を売却することができずにトラブルになりがちです。そのため、売却にあたっては、なるべく早めかつスムーズに合意を取り付けておくということが重要です。

 

法定相続人であることを証明するためには、これまで、相続手続を行うたびに、戸籍謄本等の束を提出する必要がありました。平成29年5月29日から「法定相続情報証明制度」が始まったため、法務局に戸籍謄本等の束を提出し、あわせて相続関係を一覧に表した図を提出すれば、登記官がその一覧図に確認文を付した写しを無料で交付してもらえることになり、相続手続のたびに戸籍謄本等の束を出す必要がなくなりました。

 

筆者が手掛けた案件では、9人の相続人が土地を共有していたケースが印象的でした。両親から兄弟姉妹が土地を相続したとのことでしたが、共有状態にしたままで時間が経過し、だんだんと皆が高齢になっているところで、1人の相続人から相談を受けたのです。

 

元々兄弟姉妹が9人いたわけではないのですが、なぜ相続人が増えたかというと、相続権を持っている人が亡くなって、その子供ら(兄弟姉妹からすると甥・姪)が相続権を引き継いでいたからです。相続人が亡くなるとその権利は子に移るようになっています。これを代襲相続といいます。

 

相談された時点で兄弟姉妹のうちの1人が亡くなっていたため、代襲相続が発生し相続人が9人にまで増えていたのです。このままでは他の人で代襲相続が起こるのも時間の問題でした。今以上に相続人が増えると、売却のための同意を集めて回るのが困難になります。そこで、依頼者がいよいよ危機感を覚え、我々のもとに相談に来たのでした。

 

我々は1人ずつの相続人と連絡をとり、同意の書類を集めて回りました。かなり時間が経過していたこともあって、9人はそれぞれ日本各地に離れて住んでおり、中には海外に長期滞在している人までいました。結果的には無事に全員の同意を得ることができ、高値売却ができたのですが、その労力たるや生半可なものではありませんでした。

 

ちなみに、取引が終わって1ヵ月ほどして、また1人相続人が亡くなりました。その方には3人の子がいましたので、タイミングが少し遅れていたら、また3人分の合意が必要になるところでした。

私道に面する土地は、通行掘削承諾がネックになりがち

⑤私道に面している場合、私道所有者の通行および掘削の承諾が取れているか

 

私道に面している土地の場合は、通行掘削承諾がネックになることが多いです。ここでいう「私道」とは私人が設置し、管理をする道路です。これに対して「公道」とは、広義では、公共一般に広く供されている道を言い、狭義では国や地方公共団体が管理する道路です。公道か私道かは所有権のみでは判断できないのが厄介なところです。一例をあげれば、都内有数の高級住宅地である渋谷区松濤には、屋敷をかまえていた旧大名家の鍋島家の所有地である区道が多数あります。私道には次のようなことがよく見られます。

 

ア 私道の所有権や持分について

小規模な分譲地で散見されますが、建物の敷地となる土地の所有権は取得しているが、その敷地に接する私道の所有権や持分が、当初分譲した不動産会社や前所有者に残されているケースがあります。また、私道所有者の所有権登記が戦前になされたままで、私道の相続人を探すのに大変苦労したケースもあります。

 

イ 管理について

舗装や私道の下水管のメンテナンス費等の負担を誰が行うか、どう分担するかが決まっていないケースがあります。

 

ウ 通行について

建築基準法でいう道路の場合は、裁判例により建築基準法に基づいて人の通行の自由が認められます。しかし、自動車による通行が当然に認められるわけではありません。私道の中心に杭が立っていて車の進入を制限している私道がこれにあたりますが、そのままでは使いづらくなってしまいます。

 

エ 掘削について

私道に上下水道配管、ガス管を設置する場合、私道所有者の承諾がないと水道局やガス会社等の事業者は工事をしてくれません。

 

こうしたことが元になってトラブルが起こってしまうことがよくあるので、それを避けるためにも、売却前には私道の所有者から人および自動車の通行や掘削の承諾書を取り付けておく必要があります。私道所有者の所在が不明であったり、私道共有者が多数に及んでしまったりする場合には、承諾書の取り受けが困難となることがありますが、そのことを把握しておくこと自体が大事です。

 

また、いわゆる共有私道について補修工事等を行う場合に、民法の共有物の保存・管理等の解釈が必ずしも明確でなく、事実上、所有者全員の同意を得る運用となっています。そこで、法務省はこれに対して、全員の同意がなくても補修工事ができるように、必要な同意の範囲についてガイドラインを公表しました。

 

例えば、共有私道の舗装の修復は、保存行為であり、一人で可能であると示し、公共下水管の新設は、管理に関する事項に当たり、共有物の持分価格の過半数の同意が必要であると示し、35事例について見解を示しています。

 

「⑥借地権・底地・借家権はどうなっているか」については、次回の記事で詳述します。

 

 

土屋 忠昭
株式会社共信トラスティ 代表取締役
不動産鑑定士

 

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    幻冬舎メディアコンサルティング

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