不動産の売却にあたり、土壌汚染の事前処理は欠かせません。土地の利用履歴を確認や土地の採取により必ず調査する必要がありますが、場合によっては調査費用が過大となることもあるでしょう。取引対象地自体が汚染されている場合、どのような取引になるのでしょうか? 本記事は『増補改訂版 不動産は「オークション」で売りなさい』(幻冬舎MC)より一部を抜粋、再編集したものです。

行政認可の不溶化処理を行うも、買主から事後請求が…

土壌汚染は土地の瑕疵(きず)とみなされ、売却前に見つかった場合には処理しなくてはなりません(以前紹介した記事『土壌汚染、アスベスト…ワケあり不動産の高値売却テクニック』にて詳述)。

 

【事例1】工場跡地から大量のヒ素…「処理費用数千万払え」請求されるもゼロ円で決着

 

土壌汚染されている土地の取引で印象的な取引としては、東京都の東部で工場跡地の借地権を底地権者である地主に売却するに際して、土壌汚染の有無を調査したところ、基準を超える特定有害物質であるヒ素が検出されたケースです。

 

このケースでは、行政によって認められた不溶化処理を行って借地権の買主である地主に借地権の対象である工場跡地を引き渡しました。

 

地主はその後、所有権として対象地をマンションデベロッパーに売却し、デベロッパーがマンションの建設工事をある準大手ゼネコンに発注しました。

 

そのゼネコンが対象地から発生した残土を残土処分場に持ち込んだところ、汚染残土であるといわれたということで、ゼネコンが対象地の売主である地主に数千万円の処理費用を請求してきました。これを受けて、地主は借地人に対して、この処理費用を請求してきました。

 

借地権の売却後、さらに売却された先で
地主への請求「処理費用数千万円」が、借地人に回ってきて…

 

私たちは、借地人から地主への借地権売買契約の物件引き渡しに際して、土壌汚染については、行政の示した手順と方法によって処理(不溶化処理)を完了して引き渡す旨の覚書を借地人と地主の間で調印していました。これを根拠に、私たちの依頼者である借地人は1円の支払いもすることなく、この問題の決着をつけました。

 

このケースは、土壌汚染対策法が土壌の完全浄化を目標としておらず、土壌環境のリスク管理の考え方を基本としていることを示していると思います。

 

リスク管理の考え方のもとに、土壌の完全浄化ではなく様々なオプション(一例として不溶化処理)が設定されているから、行政によって認められた不溶化処理を行ったことがあっても最終決着しないのです。土壌汚染対策法は、

 

①人の健康の保護

②私有財産としての不動産価値

③工場等の企業活動

 

など、多くの社会問題や経済問題に対して配慮が必要とされる複雑な事情があるため、制度面でも、まだまだ多くの課題が残されています。

 

即ち①を徹底すれば、特定有害物質も同法所定の物質に限らず有害性のある物質すべてが規制対象となるし、有害物質の有無の調査も10mあるいは30m格子内の一地点での調査ではなく、もっと密に調査をすることとなり、汚染除去の方法も不溶化処理でなく、完全浄化を目指して掘削除去を行うことになります。しかし、現行法は、②や③にも配慮して、不溶化処理も認めています。

 

私たちが直面したケースで現行法の下で、土壌汚染調査を行った結果、同じ土地について複数の調査会社に調査を依頼した結果A社の調査では汚染ありとの結果が出たがB社の調査結果では汚染なしとの結果が出たり、別件では、同じ土地について、A社の調査では、二種類の汚染物資が報告されたが、B社の調査では三種類の汚染物質が報告されたということもあります。

 

いずれにしても売買契約にあたって、問題点は必ず書面によって結論を明示し、調印することの重要性を再認識しました。

「汚染の有無は自明」調査費用を軽減し、売却できた例

【事例2】東京大空襲に被災した土地…広範囲にわたる鉛汚染が検出

 

取引対象地自体が汚染されている取引の二つめのケースは、東京都東部の区にある清算する会社の駐車場と住居兼事務所の敷地の売却のケースです。

 

このエリアは東京大空襲の被災地であるので、焼夷弾の燃料に鉛が添加されていた可能性があるため、50%位の確率で鉛汚染の結果が出ると土壌汚染調査会社からいわれていました。そこで、売主会社の清算人の了承を得て、土壌汚染調査を最初に行いました。その結果、対象地のかなりの部分から鉛汚染の結果が出ました。

 

土壌汚染調査を依頼するに際して留意したのは、調査費用の軽減化でした。そこで、費用が数十万円と安く済む表層土壌調査のみ行い、これによって、揮発性有機化合物、重金属、農薬、PCBの有無と汚染の平面的な広がりを調べました。詳細調査をすれば汚染のあった区画の10mまでの汚染の深度と地下水の汚染の有無が判明します。

 

しかし、その調査には、数百万円の調査費用がかかります。土地の用途によっては、2m程の深さの土の入れ換えで、土壌改良はよしとする購入者も多数いるので、無駄な費用をかけたくなかったのです。

 

土壌汚染表層調査の結果を開示して、入札による売却を行い、清算人、清算会社の株主も満足する価格を提示した落札者と売買契約をすることができました。

相対取引では実現し得ない高額売却が実現

【事例3】処理費用「数億円」の土壌汚染と地中障害を抱えた物件

 

取引対象地自体が汚染されている取引の三つめのケースは、前のケースと同様に東京都東部の区にある、ある会社の倉庫跡地と鉄筋コンクリート造の事務所・寄宿舎兼用の空家を売却するケースです。

 

このエリアは、古くから中小の工場、倉庫が混在するエリアで、売主が事前に土壌汚染調査を二つの調査会社に依頼し、一社からは鉛とヒ素による汚染、もう一社からは、これらに加えてセレンによる汚染が報告されており、汚染処理費用として数億円の見積書が提示されていました。さらに、

 

この物件では、すでに解体されている鉄筋コンクリート造の倉庫の鉄筋コンクリート基礎杭が地中障害として約300本地中に残されていました。このような状況のもとでの物件売却では、土壌汚染と地中障害がない物件価格の半値位でしか、売却できないのではないかと予想していました。

 

この物件売却は、物件価格を超える債務を売却代金の限度で弁済するいわゆる任意売却でした。物件の所有者(債務者)の代理人の弁護士が入札方式での売却を行いました。債権者は、あるメガバンクであったため、弁護士は買主をさがす仲介(宅建)業者として、メガバンク系列の宅建業者3社と物件所在地の地元宅建業者と私どもの計5社に仲介を依頼しました。買主さがしは、多チャンネルによる仲介(宅建)業者の競争ですので、大激戦となり、めぼしいデベロッパーのほとんどに、この物件情報が流布されました。入札の結果、私どもの紹介したデベロッパーが、最高価格と次順位でした。

 

最高価格のデベロッパーは、土壌汚染を理由に購入資金の融資が不調となり脱落しましたが、次順位のデベロッパーは自己資金で購入できるので、このデベロッパーと取引を完了しました。この契約金額は、私たちが当初見込んでいた土壌汚染と地中障害がない物件売却価格に近いものでした。いわゆる相対取引では、このような高額売却は無理で、入札で買主に競合してもらったからこそ出た価格であると思います。この結果については、売主と代理人弁護士からも喜んでもらえました。売主としては、売買契約の中で、土壌汚染と杭の地中障害のあることを買主に示したうえで、売主は瑕疵担保責任を負わない条件なのでベストの着地でした。

 

 

土屋 忠昭
株式会社共信トラスティ 代表取締役
不動産鑑定士

 

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