事故物件や治安に著しい不安要素を持つ不動産を積極的に欲しがる買い手はなかなかいないでしょう。しかし売主としては、損失を出すことなく、できるだけ高値で手放したいものです。後々トラブルを起こすことなく公正明大な売却を実現するには、どうすればよいのでしょうか。本記事は『増補改訂版 不動産は「オークション」で売りなさい』(幻冬舎MC)より一部を抜粋、再編集したものです。

事前解決がむずかしい場合、入札要綱に問題点を明記

不動産オークションで、買主の意思決定に影響を与えるようなトラブル等が不動産に見つかった場合、事前に解決できる問題については最大限の問題解決を図りますが、どうしても問題が残ってしまう場合もあります。

 

そんなときは、入札要綱にその旨を明記します。あらかじめ判明している問題点を隠さずに告知することが、公正な取引の基本です。

 

告知事項の対象となるのは、たとえば当該不動産において次のようなことがあった場合です。これらは我々が解決しようにもできないことです。

 

①事故(自殺、殺人事件、孤独死など)があった場合

②反社会的勢力が近隣に存在する場合

 

「こんなトラブルを抱えてたなんて聞いてない!」と責任を追及される事態にならないように
「知ってたら買わなかったのに!」と責任を追及される事態が最も厄介

孤独死による事故物件か?「戸籍謄本」から推測

①事故物件

 

これからも増えていくと考えられるのが老人の孤独死などですが、孤独死かどうかを判別する資料としては戸籍謄本が役立ちます。戸籍謄本上で、死亡日時の記載が具体的に特定されず●日頃死亡と記載されている場合、医師の死亡診断書に基づかないで死体検案書による死亡届であったということが推測されるからです。

 

孤独死が判明した場合、その物件の心理的瑕疵となりますので、物件概要書に告知事項ありと記載し、問い合わせがあれば口頭で内容を購入検討者に伝えます。

反社会的勢力は「要告知」だが、実際の把握が困難

②反社会的勢力が近隣にいる場合

 

裁判例では、購入不動産の交差点の対角線上に反社会的勢力の事務所が存在する、あるいは同じマンション内の別の部屋に居住していて、構成員が頻繁に出入りしたり、管理費を長期間滞納したり、共有部分を物置として専用使用するなどの事情がある場合には、告知すべきとされています。

 

これら反社会的勢力の把握方法は、所轄警察署の組織犯罪対策課や暴力団追放センターに相談することですが、これらによっても教えてもらえるのは暴力団事務所、構成員かどうか(生年月日を示すことが必要)までです。ただし、暴力団事務所と疑われる場所を警察に確認する場合、地図上でこの付近と示すのではなく、対象地をピンポイントで示すことができる場合は、この場所と特定して示すことが肝心です。

 

以前、大阪市南部の警察の暴力団担当刑事から「あなたはピンポイントで対象地の確認を求めてきたので、その場所が暴力団事務所であると回答します」といわれました。暴力団事務所の有無については、対象不動産がマンションの場合は管理人に教えてもらうのも一つの方法です。他の方法としては地域の自治会長、新聞販売店、ソバ屋等に教えてもらうということも可能です。

 

判別方法としては、外観(看板のまったくない事務所、豪壮な邸宅、外車等)から手がかり得ることもあります。筆者の仲介物件でも、反社会的勢力関係者に占有されたことがありましたが、この場合は、破産管財物件でしたので、破産管財人が警察の立会いのもとで裁判所の強制執行で排除しました。

 

別の件で、不法占拠者が多数いるビルの売買で、売買契約書の反社会的勢力排除条項の削除を買主から要求されましたが、断ったところ、その買主は売買契約調印を断念しました。この買主は、暴力団追放センターから反社会的勢力の密接交際者であると教えられていた者でした。

 

また、東京の下町の破産物件の任意売却で、物件の隣に看板も事務所名も何も表示されていない色ガラス扉の事務所があったので、調べたところ暴力団事務所で、そのことを買主に対して重要事項として説明し、トラブルを避けることができました。

高値売却を実現する最大の条件は「丁寧な事前準備」

このように入念な事前準備をしておくことで、相対取引で起こるような諸々のトラブル、たとえば購入価格の引き下げや取引後の費用負担の問題などは少なくなります。

 

通常、相対取引では事前準備はほとんど行われません。取引が進むにしたがって、「境界確定のための測量をしましょう」とか「土壌汚染の調査をしてみましょう」などという話になっていくことが多いです。そのたびに費用やスケジュールの話し合いになるため、時間が掛かってしまい、売却価格もどんどん下がっていってしまいます。耳にした例でいえば、売主側で測量を完了して引き渡す条件で契約を交わしたものの、いざ測量を始めてみたら隣地との境界が決まらず、1年以上も膠着状態が続いて、結局、買主がしびれを切らし、取引が白紙になってしまったという事例です。こんな徒労は誰もが避けたいところです。

 

その点、オークションは事前処理をしてから臨むので、ほとんどの問題がクリアになっています。境界確定が済んでいない土地でも、「取引後に買主に境界確定をしてもらいますが、それでもよければ買ってください」という条件で入札を募ります。その条件がのめる人や業者しか入札はしてきませんので、揉めごとが起こりにくいといえます。

 

ちなみに、筆者の会社ではどうしても相対取引をしなければならなくなったときでも、できるだけ事前処理を行い、万全を期すようにしています。それは長年の経験や実績から、事前処理の大事さをよく知っているからです。

 

結論としていえることは〝瑕疵の少ない物件に整える「事前処理」こそが、オークション成功の最大の前提条件であり、カギである〟ということです。

 

 

土屋 忠昭
株式会社共信トラスティ 代表取締役
不動産鑑定士

 

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