不動産をオークションで高値で売却するためには、事前に問題やトラブルの種がないか検証し、解決しておくことが重要です。売買の際に懸念される「借地権・底地・借家権」の問題ついて、解決方法を探ります。本記事は『増補改訂版 不動産は「オークション」で売りなさい』(幻冬舎MC)より一部を抜粋、再編集したものです。

借地権と底地、どちらか一方だけでは売却が不利に

オークションによる不動産の高値売却を実現するには、事前準備として下記のチェックが欠かせません。

 

(1)物的な欠陥や問題点がないか

(2)法的な欠陥や問題点がないか

(3)後々トラブルになりそうな種はないか

 

本記事では、前回の『売主は本当に所有者なのか? 不動産の売買「最重要確認事項」』に引き続き、(2)の「私法上の問題」として取り上げた下記項目のうち、⑥について見ていきます。

 

①売主が真の所有者か

②売主に本当に売る意思があるか

③代理人がいる場合は、代理権を持っているか

④相続財産の売却では、売主として相続人がすべて把握されているか

⑤私道に面している場合、私道所有者の通行および掘削の承諾が取れているか

⑥借地権・底地・借家権はどうなっているか

 

⑥借地権・底地・借家権はどうなっているか

 

「借地権」とは地主が地代をとって人に貸している土地で、借主はその土地に対して借地権を持ちます。「底地」とは借地権がついている土地のことで、地主は底地を持ちます。借主の借地権と地主の底地の比率は土地やエリアによって異なりますが6対4や7対3などが多く、都心などでは9対1というところもあるほど借主が優遇されています。

 

ここでの問題は借地権と底地、どちらか一方だけだと売却が不利になるということです。例えば、借地に人が住んでいるのに、地主がその土地の売却を希望したときは、底地のみの売却が考えられます。ただし、底地は地代徴収権としての意味しか持たないので、なかなか買手を見つけるのは難しくなります。また、借地人が借地権を第三者に売りたいという時もまた、所有権ほど容易に買主を見つけることはできません。

 

これは、どちらか一方だけでは、使い勝手や価値がかなり制限されてしまうからです。そこで、最も望ましい展開は借地権と底地を合わせて所有権として売却することです。これなら買主は所有権として土地を取得できることから、売りやすく、価格も所有権として買ってもらえるので、高く売れます。所有権としての土地が売却できた場合、売買代金は一般的には国税庁が公表している路線価図の借地権割合で借地権者と地主で配分します。借地人は次に述べる承諾料(名義書換料)を負担しなくてもよいので、その分、地主への配分をプラスしてくれと地主からいわれることもあります。それぞれの対処法について確認していきます。

 

借地権と底地を合わせて所有権
借地権と底地を合わせて「所有権」とすることで、高値売却が実現

借地権はあくまで「地主からの借り物」

【対処法1】借地権を売却する

 

借地権を売却したいというときは、地主の同意を得てから、底地と同時に売買できれば、買主側は所有権を得られるので不利になる点はなくなります。ただし、地主が底地を売却することに同意しない場合があります。例えば、先祖伝来の土地を自分の代で売れないとか、寺、神社等宗教法人の土地で売れないとかのケースがこれに該当します。

 

また、借地権として売却する場合、地主の譲渡承諾をもらわなければなりません。承諾を得るために地主から承諾料(名義書換料)を要求されますが、東京の場合、借地権価格の10%が相場となっています。

 

借地権はあくまで地主からの借り物なので、借地上の建物の用途変更、増改築をする場合なども地主に承諾料を支払って認めてもらわなければならないように、地主の承諾がなければ譲渡もできないということです。このあたりは、地主の意向を聞きながら相談するしかありません。

 

地主が承諾しない場合、裁判所に申し立てて、地主の承諾に代えて裁判所の許可で借地権譲渡はできますが(www.courts.go.jp)、この場合も、地主に対し借地人から借地権価格の10%の承諾料の支払いが条件となります。裁判所の許可で借地権譲渡をした場合、借地権の譲受人が借地上の建物と借地権を担保に入れて銀行から融資を受けるにあたって、銀行から求められる地主の承諾書はもらえない可能性が高いことに注意する必要があります。

 

ちなみに、借主と地主の関係性の話が出たので、ここで触れておきますが、借地期間が満了となると多くの場合、更新料を地主に支払っています。更新料を地主に支払わなければならないかについては、裁判例は借地権者と地主の間に更新料を支払う合意がない限り、更新料を支払う義務はないとの判断をしています。しかし多くのケースで、地主との紛争を回避するため等の理由で更新料が支払われているようです。

 

【対処法2】底地を売却する

 

地主が借地上に建物がある底地を借地人以外の第三者に売却したいという場合です。この場合、地主は底地の買主に収益物件として底地を売却します。収益物件としての底地は手間もかからず、空室リスクもありません。

 

【対処法3】借地権と底地の比率で土地を分割する

 

例えば、借地権の対象である土地が100坪あり、借地権割合60%、底地割合40%と合意した場合、土地を分割して借地権者が土地所有権を60坪取得し、地主が残り40坪の所有権を保持するという方法です。

「立ち退き料」はどうやって決めればいいのか

【対処法4】借家の立ち退き交渉をする

 

借家契約では、家主の使用の必要性が借家人より強い等の正当事由がない限り、家主の都合で更新を拒絶し、出て行ってもらうことができません。そこで、相当の立退料を支払うことで、立ち退いてもらうことになります。立退料の金額はケースバイケースで個別差が大きいのですが、決め方としてはおもに次の3通りです。

 

①最近の裁判例をもとに地主と借主の話し合いで決める方法

 

最近の裁判例によれば、立退料には次のようなものが含まれます。

 

●移転費用等の雑費…引っ越し代、新賃貸借契約に必要な費用など

●借主が事実上失う利益の補償…営業権、地域での付き合いなど

●借家権価格…立ち退きにより消滅する利用権の補償(借家権の対価そのもの)

 

②「土地・建物価格の約20%」という基準を使う方法

 

立ち退き事例では、その多くが借家権割合をもとにした価格交渉で成立しています。借家権割合は国税庁の路線価図によれば、土地は借地権割合の30%、建物は建物価格の30%が借家権割合とされています。土地については借地権割合が70%の地域が多いことから借家権割合30%を乗ずると土地価格の21%となります。建物価格の割合も減価補正等により少なくなるとすると、土地建物全体としても借家権割合は21%に近似することになります。

 

最近の立ち退き事例、借家権割合事例アンケート結果の分析によっても、立退料は、土地建物価格のほぼ20%ということで、立退料と土地建物価格の関連性が裏付けられています。

 

③家賃の何倍かで決める方法

 

借家権取引慣例についての、不動産鑑定士への立退料の相場に対するアンケートにおいて、立退料に相場があるとした不動産鑑定士の回答結果では、現行家賃の何ヵ月程度となったかの平均値として、次のような結果が示されています。なお、この月数はあくまで不動産鑑定士の認識で、実例ではありません。

 

●住宅(回答数45)…7.3ヵ月程度

●事務所(回答数33)…14.1ヵ月程度

●店舗(物販)(回答数32)…24.6ヵ月程度

●工場(回答数16)…10.9ヵ月程度

●倉庫(回答数17)…8.4ヵ月程度

 

①②は東京都不動産鑑定士協会の「借家権と立退料」、③は、日本不動産鑑定士協会連合会の「借家権の取引慣行等についてのアンケート調査結果について」から一部引用しました。

 

立ち退きの成功率は、当然のことながら立退料の金額に比例します。太っ腹にたくさん支払えば、すんなり立ち退いてはもらえるでしょうが、それでは大家の資産を守ることにはならないので、適切な額で話し合いがつくように持っていくことが肝心です。立ち退きの合意書は、裁判所で和解調書を作成してもらって、「即決和解手続」にするのがミソです。こうしておくと、借主が退去期限を守らない場合、裁判を経ずに明け渡しの強制執行ができるからです。公正証書による合意では明渡しの強制執行はできません。

 

なお、スルガコーポレーション事件において、弁護士資格がない者が立ち退き交渉を行う行為は、弁護士法違反となるとの判断が最高裁で出されたので、立ち退き交渉は弁護士に依頼することが妥当と思われます。

 

 

土屋 忠昭
株式会社共信トラスティ 代表取締役
不動産鑑定士

 

増補改訂版 不動産は「オークション」で売りなさい

増補改訂版 不動産は「オークション」で売りなさい

土屋 忠昭

幻冬舎メディアコンサルティング

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