地中障害の事前処理は「売主への徹底的なヒアリング」
【事例1】地中障害のある土地の取引
この種の取引の第一例は、都内指折りの人気住宅地の取引で、買主が建物新築の基礎工事を始めたところ、地中から、鋼材の破片が出てきたというものでした。この土地の売主は鋼材問屋で、この土地を社宅として使っていました。私たちは、売主側の仲介業者として、この取引に関与していましたが、売買物件に隠れた瑕疵(きず)があることは明白であるので、売主に瑕疵担保責任が契約上あることを説明して、鋼材の破片の処理費用を売主に負担してもらい、買主の了承を得て問題の決着を図りました。
現在の取引においては、売買契約調印に先立って、売主から売買物件についての情報開示書(告知書)を記入してもらい地中障害の有無の申告を求めています。本件取引のころ、告知書が一般化していなかったのも、本件発生の一因と思われます。
本件については、後日談があり、本件土地の買主が約20年後に、本件土地を売却したいので、売主側の仲介業者となってほしいといってこられました。以前の地中障害のトラブルの際に、適切に対応したことを評価していただいたものと思われます。地中障害については、売主からのヒアリングを徹底することが一番重要です。土壌汚染のように法に基づく調査手順もありませんので、事前調査も手さぐりとなります。
物件の「向かい側」に暴力団事務所があったケース
【事例2】反社会的勢力にかかわる取引
この種の取引の第一のケースは、大阪市南部の盛り場の駐車場の売買で、この駐車場の向かいに暴力団事務所があったことを「近隣」に暴力団事務所があると重要事項説明したところ、買主から「向かい」にあると説明していないとのクレームをつけられ、暴力団事務所の向かい側の物件の測量には手間がかかるといわれ、その費用として数十万円要求されたことです。
このケースの場合、近隣と説明したのは、向かいにあると特定すると、万一、重要事項説明書に記載してあることがその暴力団にわかった場合のトラブルを懸念したためです。買主にその点につけこまれ、無用の費用を支払わされました。買主は地元の人なので、向かいに事務所があることは先刻承知だったのです。
この件があって以来、このようなことについては、別紙で説明を受けたことの書面を買主から取り受け、その書面には詳細に説明するようにしています。

第二のケースは取引物件のやはり向かいに暴力団幹部の自宅があったものです。京都市北西部の有名な観光地にある社宅の売却の依頼を受け、現地を検分したところ、物件の向かいに塀で囲われた邸宅があり、邸宅の前には黒塗りの大型乗用車が駐車しており、何か違和感を覚えました。
そこで、所轄警察署の暴力団担当を訪問し、物件の近隣に暴力団事務所等はないかと質問しても何の回答も得られませんでした。
そうこうするうちに、偶然、当該社宅に居住していた人と遭遇し、問題の邸宅は有名暴力団の幹部の自宅であることが判明しました。
この社宅は、大手マンションデベロッパーが買ってくれることになり、担当者に問題の邸宅の件を説明すると、そんなことを気にしていたのでは、マンションは建てられないとの回答で、売買契約をすることができました。
間口が7cm足りず…「再建築不可物件」として安値売却
【事例3】間口が2m欠けている土地の取引
その土地の上に建物を建築するには、建築基準法によって認められた道路に2m以上接しなければなりません。私たちが仲介したケースで、路地上の土地で間口が2mに7cm足りない土地がありました。
都内の閑静な中級住宅地で、人気のある私鉄沿線の駅から徒歩10分以内の立地で、間口の問題を除いては、取り立てて難のない物件でした。この7cmの長さは、塀の厚さより短い長さでしたので、一方の隣地所有者に幅7cm分で奥行き15mの土地を売ってもらえないか交渉しました。その面積は約1m²にすぎないのですが、売ってもらえないと、再建築不可の物件ということで値段が大幅に下がってしまうので、所有者とも相談して、300万円という価格を提示しました。この価格は坪当たりでは相場の倍以上の価格でしたが、売ってもらえませんでした。
その理由は、過去にその隣地所有者とトラブルがあり、感情問題があったため、価格のいかんにかかわらず売りたくないということのようでした。
そこで、やむを得ず、再建築不可物件を前提として買取業者に安く買ってもらいました。あとで、その買取業者は、その物件を挟んで、反対側の隣地所有者に7cm幅の譲渡をお願いして取得できましたが、なんとその価格は1,000万円だったそうです。
非相続人でも財産の相続が認められる「特別縁故者」
【事例4】相続人不存在をめぐって…
相続人が存在しない場合、相続人不存在のまま亡くなった人(被相続人)の財産は民法により相続財産法人とされ、家庭裁判所から選任された相続財産管理人(多くの場合、弁護士で、司法書士の場合もある)が管理し、不動産の場合は、家庭裁判所の許可を得て売却し、売却代金を国庫に納めます。
その際、被相続人の療養看護に努めたということで、相続人でない場合でも、特別縁故者と家庭裁判所から認められれば、相続財産をもらうことができます。
私たちが、相続財産管理人から売却の仲介の依頼を受けたケースで、被相続人の相談に頻繁にのっていたことが評価されて、特別縁故者と認められたものもあれば、間借人が、特別縁故者である旨の主張をしたものの、同じ屋根の下にいながら、被相続人の死亡を発見したのは訪問介護の人であったこと等から認められなかったケースもあります。
また、被相続人から、自分が亡くなったら財産をあげるといわれた人が複数登場し、遺言書はないかというので、その人達に3時間遺言書をさがす時間を認めるからさがしてくださいということで、相続財産管理人と対象のマンションの部屋で待機したケースもあります。このケースでは結局、遺言書は出てきませんでした。
土屋 忠昭
株式会社共信トラスティ 代表取締役
不動産鑑定士