不動産はオークションを活用することにより高値売却が実現します。しかし、一筋縄では行かない「ワケあり不動産」も…。筆者が実際に立ち会った売買の事例を紹介しましょう。本記事は『増補改訂版 不動産は「オークション」で売りなさい』(幻冬舎MC)より一部を抜粋、再編集したものです。

400haという広大さ…実測不可能な「山林」の売却

【事例1】400ha(約400町歩)の山林売買

 

この取引は、以前、破産管財物件の売却の仲介を委ねてくれた弁護士からかかってきた、一本の電話から始まりました。その弁護士は岩手県にある破産会社の破産管財人に就任していました。

 

その管財人とは、以前、全国に営業所を展開していた大型破産案件の売却の仲介で、全国の営業所の売却の契約に同行したことがありました。その際のよもやま話で、筆者が若い頃、信託銀行の仙台支店在勤時に、東北地方の山林を鑑定評価したことがあることを話したことを破産管財人が記憶しており、「土屋さん(筆者)、東北の山を評価していましたよね」という話から、今回、岩手県にある破産会社の破産管財人に就任したが、管財物件の中に400町歩の山林があるので、売却の仲介をしてくれないかということになりました。

 

破産管財人との打合せで、山林の売却条件をどうするかということが問題となりました。山林の場合、土地の値段よりも、山に植えられている木(立木〔りゅうぼく〕といいます)の値段が高いことが多いからです。

 

本来なら、どの樹種の木で、植えてから何年経ったもので、高さが●●mで、幹の太さが●●cmで、一本当たりの木の体積が●●m²の木が何本生えているので立木の価格は●●円と計算して取引すべきものです。

 

しかし、400町歩の山林の木について、以上のようなことを計算することは、現実的に難しいので、次のような提案をしました。

 

各都道府県には、森林法を所管する林務事務所があり、そこには、森林簿が備えられており、これには、山林毎に、樹種、林齢、林積等森林の様々な情報が記載されています。

 

そこで、立木については、森林簿に記載の内容を取引対象物件とするという提案です。これは、土地取引の場合、土地の実測をしないで、登記簿記載の地目、面積で売買し、実測面積と差異があっても代金の精算は行わないという公簿取引を類推したものです。破産管財人もこの取引条件を認めてくれたので、山林の売買をスムーズに進めることができました。

 

400haの土地に生えた立木…それぞれの価値を実際に計算することは不可能
さすがに、400町歩もある山林内の木を計算することは不可能…

 

しかし、400町歩の取引というのは、面積が大きいので、色々苦労がありました。対象山林の登記簿の一筆毎の境界明示は事実上できないので、国土調査法に基づいて、所有者と公共団体が立ち会ってできた地籍図で境界明示に替えてもらいました。

 

その地籍図は、物件所在地の村で交付を受けたのですが、これも膨大な量となりました。物件の検分も、地図を見ながら車の通行できる道からあの山が対象不動産であるということを確認すること位しかできませんでした。

 

400町歩の山林の売買価格は、都心の億ション一戸分位で、遠隔地であるため、取引の効率は良くありませんでした。しかし、私どものモットーは、場所、規模にかかわらず、依頼のある物件は基本的に断らないということなので、得がたい経験をさせてもらった貴重な取引であると考えています。

開発許可・建築確認を「事後的」に取得し、売却を実現

【事例2】著しい都市計画法、建築基準法違反のあった工場の売買の仲介

 

以前紹介した記事『土地の高値売却…境界線問題解決の奥の手「カミソリ分筆」とは』では、市街化調整区域に指定され、建物の建築が認められていない土地はオークション向きではないと解説しました。

 

この事例の物件は、埼玉県内の破産した食品会社の工場でした。この物件の最大の問題点は、市街化調整区域にあるにもかかわらず、建物の大部分が開発許可も、建築確認も取らずに建築されていたことでした。

 

このままでは、買主を見つけることは無理なので、開発許可については、開発許可権限を持っている、地方公共団体の開発規制担当部門と協議を重ねて、無許可とはいえ20年以上操業してきた実績を考慮してもらい、破産会社が操業してきた動力電源の契約電力の範囲内の規模で、開発許可を得ることができました。

 

建築確認を得ていないことについては、県の建築確認担当部門と協議して、建築確認をこれから得ることはできないので、少なくとも建築基準法による除去命令が出されないことの了承が得られることを目指しました。

 

県の担当部門に建物の現況を見てもらった結果、対象建物について、設計図が全くないので、現況を示している図面を作成することが判断の前提であるといわれました。

 

そこで、私たち仲介者の負担で設計事務所に建物の現況図を作成してもらい、その図面をもとに県の担当部門から除却命令を出さなければならないような危険な建物ではないとの判断を示してもらい、無事、売買の仲介を完了することができました。

 

この破産物件の任意売却の話が持ち上がったとき、メガバンクグループの仲介会社が担保権者の推薦を受けたということで、破産管財人に対して専任媒介契約を締結してもらいたいとの申し入れをしてきました。しかし、破産管財人が仲介会社のブランドより過去の実績を重視するとの判断で、私たちの会社と専任媒介契約を締結してくれた経緯があり、破産管財人の期待に応えることができたことで満足できた取引でした。 

 

 

土屋 忠昭
株式会社共信トラスティ 代表取締役
不動産鑑定士

 

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    幻冬舎メディアコンサルティング

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