買主が是非ほしいと思う不動産であれば、オークションでの高値売却は可能です。では、土壌汚染やアスベスト使用といった不利な条件がある不動産はどうでしょうか。その方策を探ります。本記事は『増補改訂版 不動産は「オークション」で売りなさい』(幻冬舎MC)より一部を抜粋、再編集したものです。

不動産の高値売却には「問題点の事前処理」が必要

前回の『土地の高値売却…境界線問題解決の奥の手「カミソリ分筆」とは』に引き続き、本記事では不動産の高値売却に必要な下準備について解説します。

 

前回、不動産をオークションにかける事前準備として、高値売却の弊害となりうる問題点を洗い出す必要があることがわかりました。チェックポイントは大きく三つです。

 

①物的な欠陥や問題点がないか

②法的な欠陥や問題点がないか

③後々トラブルになりそうな種はないか

 

物的な面で事前に確認しておかなければならないのは、特に以下のようなことです。

 

【チェックポイント】

 

①境界線・越境物

②地中障害・土壌汚染

③アスベスト

④PCB(ポリ塩化ビフェニル)

⑤がけ・擁壁

 

前回の『土地の高値売却…境界線問題解決の奥の手「カミソリ分筆」とは』では、①を解説しました。本記事では、②以降について詳述します。

「土壌汚染調査」が高値売却に繋がるワケ

チェックポイント②地中障害・土壌汚染

 

次に、「地中障害・土壌汚染の問題」です。地中障害とは、昔の建物の基礎が残っている場合や、浄化槽、井戸、ゴミ、石、瓦、柱等の建築廃材が埋まっている場合のことです。珍しいところでは、昔はビルの基礎に松杭を使用していたので松杭が大量に見つかったり、江戸時代の処刑場跡から人骨が出てきたりすることなどもありました。

 

こうした地中障害は、結構な割合で見つかります。昔は産廃処理規制が厳しくなかったことも理由の一つではあると思いますが、こうした地中障害があると基礎工事ができませんので事前に処理しておかないといけません。

 

また、土壌汚染とは、重金属・有機溶剤・農薬・油などの物質によって土壌が汚染されている状態のことです。汚染の原因となりやすいのは、工場や排水施設からの漏洩や廃棄物の埋め立てなどです。人為的な原因がなく、ヒ素やフッ素等、自然由来で有害物質が含まれていることもあります。

 

油(ガソリン・重油)で汚染されているという場合もあります。油は土壌汚染対策法で定められた有害物質ではありませんが、放っておくとベンゼンになる危険性もあることや、油膜、油臭の不快感から、土地の瑕疵(きず)とみなされることから、土壌汚染として対策されるケースが増えています。油汚染をそのままにしておくと、契約不適合責任を追及されるリスクもあるということです。

 

土壌汚染は人体の健康や動植物・生態系に長期間にわたり悪影響を及ぼしますので、汚染がわかったら処理しなくてはなりません。

 

しかし、土壌汚染というのは見た目や臭いで気づく場合もありますが、たいていの場合は外見では気づきにくいものです。また、土壌汚染は半永久的に残ります。売買時点では駐車場であったとしても、過去のどこかの段階で汚染されている場合があるかもしれません。

 

そのため、問題の洗い出しのときには必ず土地の利用履歴を調査します。調査方法は、古い住宅地図や建物の閉鎖登記簿謄本(昔、建っていたが、現在、取り壊されている建物の登記簿謄本)等の確認です。住宅地図は古いものでもすべて国会図書館に保存されていますので、そういう資料を探してきて、過去にガソリンスタンドやドライクリーニング工場、メッキ工場、印刷工場等がなかったかとか、周囲に化学工場があった時代はないかなど、土壌汚染に繋がるファクターの有無を確認していきます。

 

また、土壌汚染があるかどうかの調査は、土地の土を一粒ずつ調べるのではなく、調査試料採取の区画を100㎡(10m×10mの格子)とか900㎡(30m×30mの格子)で一点採取というように行うので、二つの調査会社に調査依頼すると一社からは汚染物質ありで、もう一社からはなしというケースもあります。このあたりは、宅建業者の経験と知識が生きるところです。

 

このような地中障害、土壌汚染をうまく事前処理しておくことが、オークションでの高値売却を可能にします。

 

【事例1】鉄工所用地だった過去から調査を入れて鉛汚染を発見

 

土壌汚染をめぐる問題では、こんなケースがありました。ごく一般的な土地の売却案件に思えたのですが、調査してみると以前、鉄工所の用地だったことがわかりました。鉄工所跡地ということで土壌汚染のリスクが懸念されたため、オークション前に土壌汚染調査を行ったところ、案の定、鉛の成分が検出されました。こうなると事前に土を入れ換えるか、「この土地は鉛汚染がある」という注意事項を入札要綱に記載しておかなければなりません。

 

鉛といえば、この事例では鉄工所の操業に由来する汚染の可能性が高かったわけですが、そういう工場がない場合でも検出されることがあります。例えば、戦争中に空襲を受けた地域では、焼夷弾の中に含まれていた鉛などがそのまま残っている可能性が高いと言われています。そのため、歴史的にリスクの高い地域というのがあり、だいたい目星をつけて調べるケースもあります。

 

結局、鉛汚染に対しては、オークション前に土を入れ換える処理費用の見積書をとって、これを前提に入札を行いましたが、この事前処理のおかげで高値での売却ができました。仮に鉛が検出されなかったら調査費用が無駄になるのではないかと思われる方もいるかもしれませんが、そうではありません。「土壌汚染調査済み」という保証が得られることで、買主にとっての安心材料が一つ増えることになり、高値での購入に繋がるからです。

 

【事例2】土壌汚染処理費用の負担で会社が破産

 

これは筆者が最初から携わっていなかったのですが、うまく土壌汚染対策をしておかなかったために売主が痛い目を見たケースです。

 

ある会社が、土壌汚染が判明している土地の売却を考えて、引き渡し時までに汚染処理をして買主に引き渡すという売買契約をある宅建業者の仲介でしたものの、その後、汚染処理をするための費用があまりにも多額となったため破産してしまったのです。

 

筆者は、破産した後に、破産管財人からこの土地の売却を依頼され、少額の費用で汚染処理をする買主に買ってもらう仲介をしたのですが、最初の売買契約の時の詰めが甘いと感じていました。というのも、契約時に売主の処理費用が過大となる場合には、ペナルティーなしで売買契約を白紙解除できるという内容にしておけば、破産しなくても済んだ話だからです。

 

何か問題が判明した場合には、売買契約上での対応をしておくことが重要であるとよくわかるケースでした。

 

除染費用が過大となる場合、ペナルティーなしで売買契約を白紙解除できる内容を盛り込めば、破産を回避できたが…
処理費用を考慮した売買契約を結んでいれば、破産せずに済んだが…

目視・設計図書等で確認のうえ、現地調査が必要

チェックポイント③アスベスト

 

アスベスト(石綿)は、自然界に存在する鉱物繊維で「せきめん」「いしわた」と呼ばれています。石綿含有建材はその発じんの度合いによる作業レベルの観点から整理された「レベル1~3」として便宜的に分類されています。

 

レベル1は、もっとも飛散性の高い石綿含有吹付け材であり、建築基準法で規制されている吹付け石綿などが分類されています。次いで飛散性が高いレベル2には石綿含有保温材、断熱材、耐火被覆材が分類されています。レベル3は、それ以外の石綿含有建材が分類されますが、主にスレートや岩綿吸音板などの成形板の仕上げ材料です。

 

アスベストは、そこにあること自体が直ちに問題なのではなく、飛び散ること、吸い込むことが問題となるため、労働安全衛生法や大気汚染防止法、廃棄物の処理及び清掃に関する法律などで予防や飛散防止等が図られています。

 

これらの粉塵を吸い込むことで、塵肺、肺線維症、肺癌、悪性中皮腫などの病気を発症する要因になると指摘されていることから、事前対応が必須です。飛散性アスベストが存在する建物の解体や改修工事をする場合には、まず所轄の役所に届出をしたうえで、工事に携わる労働者の健康障害の防止、大気汚染防止の観点から、施工対象区域を密封養生してアスベスト繊維が空気中に飛散することを防止する必要があり、原則として湿潤化して手作業で行うことになっています。

 

飛散性アスベストの除去、囲い込み、封じ込めを行う作業では、作業場の汚染された空気を外に逃がさないため負圧除塵装置の使用も必要です。そのため、解体費用や手間が大きくなります。引き渡し後に解体せずそのまま使い続ける場合でも、適切な安全措置を講じることが義務づけられています。

 

また、宅建業者もアスベスト使用調査の内容については重要事項説明書での説明が義務付けられています。アスベスト含有製品の有無は、建材種類別及び製造時期並びに目視、設計図書等により調査し、判断できない場合については、サンプリングをして分析が必要になります。ただし、アスベスト使用が記載されていない場合でも、後の改修・補修工事でアスベストが使用された可能性もあるので、現地調査も併せて行う必要があります。現地調査は国土交通省公認の「建築物石綿含有建材調査者」やJATI協会(旧・日本石綿協会)認定の「アスベスト診断士」に依頼するのが妥当です。

 

筆者たちが直面したケースでも、建物の設計図書では、飛散性アスベストはないという表示でしたが、現地調査をしたら、飛散性アスベストが発見され、建物の解体費が当初の見積りより倍増したことがあるので要注意です。

変圧器、コンデンサー等…平成2年頃までの製品は注意

チェックポイント④PCB(ポリ塩化ビフェニル)

 

PCB(ポリ塩化ビフェニル)は、電気機器の絶縁油、変圧器、コンデンサー、蛍光灯等の安定器、ノンカーボン紙など様々な用途で平成2年頃まで利用されてきました。しかし、脂肪に溶けやすいため体内に浸透しやすく、慢性的に体内に取り込むことで、様々な健康被害を引き起こすことがわかっています。そのため、事前対応が必要です。

 

PCBが大きく世間を騒がせたのは「カネミ油症事件」です。昭和43年10月に起きたこの事件は、米ぬか油(ライスオイル)の製造過程で用いられたPCB等が混入したことで、米ぬか油を摂取した人に食中毒が発生したものです。

 

PCBによる中毒症状は、目やに、爪や口腔粘膜の色素沈着などから始まり、座瘡様皮疹(塩素ニキビ)、爪の変形、まぶたや関節のはれなどが報告されています。被害は西日本を中心に広域にわたり、患者数は1万3,000人にまで上りました。

 

現在、PCBは譲渡を禁じられています。建物の売買でPCB使用の機器があると、売主の負担で指定業者に運搬を依頼し、PCB専門業者に処理をしてもらわなくてはなりません。危険物なので処理を待つ間も厳重に保管する義務があります。

 

PCBの有無は変圧器、コンデンサー等の形式、製造年月、製造番号等が記載されている銘板の写真をメーカーに送ればおおよそわかりますが、なかには判別がつかないものもあり、そうすると変圧器等に穴をあけて中の油を検査しなくてはなりません。その費用が10万円単位でかかってきます。それに一度穴をあけた変圧器等は使えませんので、いずれにしても処分費用がかかります。

地方公共団体の「がけ条例」に応じ、安全対策が必要

チェックポイント⑤がけ・擁壁

 

がけや擁壁が大雨で崩壊し、人命に危害を及ぼした例が全国各地で多く見られることから、事前に意識しておかなければなりません。

 

高さが2mを超えるがけや既存の擁壁に近接する土地で、その下端からその高さの2倍以内の範囲に建築物を建築する場合には、地方公共団体のいわゆる「がけ条例」により、擁壁の新設、既設の擁壁や建築物の構造などについての図表1~3の制限があります。

 

擁壁を新しく設ける必要があるため、構造計算による安全の確認、水抜きなどの排水施設の設置を行う。また、高さが2mを超える場合には、擁壁の建築確認が求められる。
[図表1]自然がけに近接して建築する場合 擁壁を新しく設ける必要があるため、構造計算による安全の確認、水抜きなどの排水施設の設置を行う。また、高さが2mを超える場合には、擁壁の建築確認が求められる。

 

30°の線以下まで基礎を根入する
[図表2]既存の擁壁に近接して建築する場合① 既存擁壁の上の土地に建築する場合、30°の線以下まで基礎を根入する。

 

鉄筋コンクリート造建築物、鉄骨鉄筋コンクリート造、または鉄筋コンクリート造防護壁
[図表3]既存の擁壁に近接して建築する場合②既存擁壁の下の土地に建築する場合、建築物を鉄筋コンクリート造、鉄骨鉄筋コンクリート造にする。または鉄筋コンクリート造防護壁を設置。

 

 

土屋 忠昭
株式会社共信トラスティ 代表取締役
不動産鑑定士

 

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    幻冬舎メディアコンサルティング

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