不動産を高く売るには、あらかじめ問題点を洗い出し、処理することが大切です。しかし、なかには専門家でさえ降参するような手ごわい問題を抱えた不動産もあるでしょう。不当な損失を避けるためには、どうすればよいのでしょうか。※本記事は『増補改訂版 不動産は「オークション」で売りなさい』(幻冬舎MC)より一部を抜粋、再編集したものです。

借地権者が高齢のためスピード売却、結果は数億円

【事例1】様々な権利問題が錯綜し数年間も膠着したが…シンプルな策でサクッと解決

 

約1000坪の土地の売却で、底地と借地権と所有権の三つが絡みあい、さらにいくつもの問題が入り組んで厄介だった案件がありました。

 

おおもとの問題は、底地権者と借地権者との間での、借地権の存否を争って訴訟にまでなっていました。単なる借地権の争いならここまでこじれることはなかったはずが、次に挙げるようないくつもの問題が事態を複雑化していました。

 

一つめは、区道を巡る問題です。当該土地には借地権者と底地権者がいて、それぞれに代理人の弁護士がいました。借地権者が区道を一部取り込んで、その代わりに自分の土地の一部を道路として区に提供していました。それぞれの弁護士は、区道と提供した土地の交換の処理を区と話し合って解決するよう、ある土地家屋調査士に依頼していました。ところが、5年経っても埒(らち)が明きませんでした。しびれを切らして、弁護士が筆者に依頼をしてきました。

 

こちらでは、こうした案件に手慣れた土地家屋調査士を紹介し、区道については約1年で解決に至りました。解決法は、至ってシンプルで、いま使っている区道の一部を区から払い下げを受け、道路提供部分を区に寄付する方法です。区は自分の身を切る必要がないので、一も二もなくOKしました。

 

最初の土地家屋調査士が目指していたのは、「提供したものと、いま使っているものを交換する」という方法です。でも、それは手間がかかるだけで大したメリットはありません。後から「交換の条件が不適切だ」などのトラブルにもなりかねません。そんなリスクを冒すよりも、損をしてでも早い解決を選びました。

 

早い解決を選んだ理由として、借地権者が80代の高齢で、これ以上の時間的余裕がなかったことがあります。

 

二つめはアスベストの問題です。借地権者がその土地でアスベスト建材製造工場をやっていました。そのため土地にアスベストが埋まっているかもしれませんでした。アスベストは先にも説明したように、中皮腫などの健康被害が報告されています。撤去は特別なやり方が決まっているのでコストがかさみます。そこで、仲介業者の費用負担で、アスベストが埋設されていないか試掘調査を行いました。

 

三つめの問題は、店舗の立ち退き問題です。ロードサイドの店舗を借地権者がファーストフード店に貸していたのを立ち退かせるのに家賃の数年分の立退料を支払いました。破格の立退料のようにみえましたが、最終的に約1000坪の土地が数億円で売れたので、むやみに高額を支払ったわけではありません。路線価の借家権割合から客観的に割り出した金額で、店舗の売り上げなども鑑みれば妥当な額ではあったはずです。

 

立退料の額についても、私たちが路線価の借家権割合を論拠に理論的に説明したのが、家主、借家人に納得してもらえた要因と考えます。なお、立ち退き交渉は当初、大家(借地権者)と借家人であるファーストフード店の各々の代理人弁護士の交渉からスタートし、具体的条件交渉は、両弁護士の了承のもとに私たちとファーストフード店の担当者で行いました。

 

四つめは、地中障害の問題です。アスベスト建材製造工場を廃業後、ゴルフ場だった部分に地中障害がありました。ネットの支柱一本に数本のコンクリート基礎があり、1ホールに4本のポール穴。1つの穴は深さ20メートル。それが4ホールで16ヵ所ありました。

 

我々がこれらの問題の目処をつけ、売買完了までにかかった年月は約3年です。依頼者の弁護士は10年近く関わっていたので、「共信トラスティでないと決着しなかった」といってもらえました。

 

当初はオークションで売ることも考えましたが、いろいろとむずかしい問題を含んでいたため、相対取引を選びました。大手の不動産会社などにも声を掛けましたが、どこも及び腰でした。結局、商業施設の開発会社が数億円で買ってくれました。

 

取引当日は、底地権者と借地権者、それぞれの代理人弁護士、ファーストフード店の担当者、買主の六者が一堂に会し、その場ですべての契約書が交わされ売買代金、立退料が支払われました。準備は大変でしたが、一気に片がついて後味のすっきりした案件でした。

 

実をいうと、最初に依頼を受けたときから、自分たちの中には解決までのシナリオが見えていました。「こういう手順を踏んでいけば売買までもっていける」「売買できれば数億円くらいになる」と予測が立っていたので、多額の立退料を払っても、また、区に土地を寄付しても自信をもって取引を進められました。

 

これまで不動産の仲介業者としてやってきて、むずかしい案件をいくつも手掛けてきました。人が二の足を踏むような手強い案件ほど、自分たちは攻略に燃えるところです。我々と同じことを他の業者ができるかといえば、おそらくできないだろうと思います。なぜなら、ほぼ我々が独自に切り開いてきた道だからです。競合他社がいないことで、自分たち流のやり方ができるところが面白いところです。

実情にあわない減価。デベロッパーの言い分は…

【事例2】「ビルを建て直して、共同事業をやりませんか」開発業者に持ちかけられ…

 

北陸のあるメーカーが都内駅前に約50坪の古いビルを持っていました。デベロッパーが周辺一帯を再開発するにあたり、「ビルを建て直して、共同事業をやりませんか」と話を持ちかけてきました。

 

ビルにはテナントが複数入っており、その立ち退きも弊社で請け負うことになりました。立ち退きは金額によっては揉めることもありますが、大家であるメーカーに理解があり、我々を信頼して任せてくれたことで、金銭的にしぶることがありませんでした。そのため、半年くらいで全テナントに退去をしてもらえました。この立ち退き交渉も、スタート時点ではメーカーの代理人弁護士に関与してもらい、具体的条件交渉は私たちとテナントとで行いました。

 

ビルの新築にあたっては、デベロッパー側が鑑定評価書を複数用意してきました。その内容は「ビルの地下を地下鉄が走っているので減価」というものでした。たしかに地下鉄が通っていることで、建物が建てられないケースはあります。今回のビル用地に関しては、地下鉄に確認しましたが建築上の決定的な制約はありませんでした。とするならば、減価の根拠がないことになります。我々が納得できないことを強く主張すると、デベロッパー側はやむなくその減価を撤回しました。

 

「減価ですね」なんで?
「減価ですね」なんで?

 

正式に共同事業をすることになり、メーカーは土地の面積に応じて完成建物の床を区分所有することになりました。メーカーの土地の時価評価額に見合うコンサル料をいただきました。

 

私たちは、価格査定では費用を一切とりません。売主がまだ弊社とコンサルティング契約を結ぶかどうか決めていない段階でも、我々は「この案件はお手伝いしたい」と思えば、サービスで査定を行います。それで結果的に契約に至らなくても、費用を請求したりはしません。なぜなら、我々の仕事はコンサルティングだと思っているからです。あくまで不動産共同事業のノウハウに対する報酬として、仕事ができたときはコンサル料をいただいています。

 

 

土屋 忠昭
株式会社共信トラスティ 代表取締役
不動産鑑定士

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