不動産の高値売却を実現できる「オークション」ですが、すべての土地に有効なわけではありません。しかし、無理だと思っていた土地も工夫次第でオークションでの売却が可能になるケースもあります。本記事は『増補改訂版 不動産は「オークション」で売りなさい』(幻冬舎MC)より一部を抜粋、再編集したものです。

高値で売れるのは、買主が「是非ほしい」と思うから

不動産は相対取引で売るよりもオークション形式で売ったほうが、ほとんどの場合、高値で売り切ることができます。しかし、オークションさえ行えば何でも高く売れるわけではなく、また、すべての不動産売却がオークションに向いているわけでもありません。

 

オークションの一番の目的は、不動産の高値売却を実現することです。

 

オークションで高値が実現する理由は、買主がオークションにかけられた不動産を是非手に入れたいと競争し、少しでも高い買付価格を提示するため価格がせり上がるからです。

 

そこで、オークションの対象として適した不動産は多数の買主が購入を検討してくれる不動産であるということです。

 

多数の買主が購入を検討してくれる不動産というには、その不動産の諸々の要因が問題となります。多数の買主が関心を示してくれる要因がその不動産に備わっているということです。具体的にいえば、商業地であっても住宅地であっても、人気のある地域にあるということです。

 

商業地で人気がある土地であるといえる地域要因としては、駅に近いという交通条件や、店舗が集まっていてお客が集まりやすいという条件や、店舗ビル等を建築しやすいという都市計画法、建築基準法等の公法上の規制等があります。住宅地の地域要因としては、駅に近いという条件のみならず、日照、道路の幅、各土地の面積、利用状況、街並みの状態、眺望景観の良さ、上下水道、ガス等の整備状態、住環境を保全するための公法上の規制等が挙げられます。

 

商業地、住宅地に共通する主な個別的要因としては、間口、奥行、面積、地形や角地等の接面道路との関係があります。例えば、間口は広く、面積は適度で、地形は整形で、角地の方が人気があります。住宅地については、以上の他、日照の良さが人気を集める条件です。

 

以上のような良い地域要因と個別要因を備えた土地が、多数の買主を集めオークションで高値売却できる土地です。

 

あああ
オークションの一番の目的は、不動産の高値売却の実現

売れない土地はこんな土地

しかし、すべての土地がこのような条件をすべて備えているわけではありません。逆に以上の諸条件のうち、オークションに向かない不動産とはどのような条件の不動産であるかを述べます。

 

●駅から遠く、人通りも少ない商業地

 

商業地についていえば、駅から遠く、人通りも少ない土地です。住宅地についていえば、駅から遠く、日照が悪く、道路が狭く面積が過大であったり、過小であったり地形不整形で住環境の悪い土地です。

 

●市街化調整区域に指定され、建物の建築が認められていない土地

 

商業地、住宅地のいずれについても、公法上の規制として、市街化調整区域に指定され、建物の建築が認められていない土地はオークションに向きません。また、都市計画区域内の土地で建築基準法上の道路に接していない土地も建物が建築できないのでオークションに向きません。

 

●土地の境界が未確定の土地

 

さらに、商業地、住宅地いずれの土地でも土地の境界が未確定の土地は、将来、境界紛争を生じさせる可能性があるため、多数の買主を集めることができず、オークションに向きません。

 

境界の確定とは、隣地所有者と境界立会したうえで、境界標識、境界杭、境界プレート、境界鋲等が設置され、境界確認書が取り交わされた状態をいいます。境界が未確定であっても、既存の境界標識が確認でき、境界標識を表示した測量図が存在すればオークションを行うことができる場合もあります。

 

●私道に接面し、私道所有者の車両通行、通行掘削承諾書が取り受けできない土地

 

この他、私道に接面した土地で私道所有者の車両通行、通行掘削承諾書が取り受けできない土地もオークションに向きません。承諾書がないと、対象の土地に車両の乗り入れができず、私道での上下水道、ガスの配管工事もできず、オークションでの入札が見込めないからです。

高値売却に不可欠なのは「問題点の洗い出し」

下準備の第一段階は、問題点の洗い出しオークションにかける不動産も、寿司のネタと同じです。形式的な手順を踏んだだけでは〝素人の寿司〟の域を出ることはできません。やはり、不動産ごとの事情や特徴に合わせて、ていねいな仕込み、つまり「事前準備」をすることが高値売却の前提条件なのです。

 

では、筆者がどんな事前準備をしているかですが、高値売却の弊害となりうる問題点を洗い出しては、的確に処理していくということです。方法としては対象物件の現地調査や役所調査を行い、気になる点をチェックして問題を随時潰していくということになります。チェックするポイントは、大きく三つです。

 

①物的な欠陥や問題点がないか

②法的な欠陥や問題点がないか

③後々トラブルになりそうな種はないか

 

これらについて、どのようなことが問題になるかを、具体的にお話ししていきましょう。

 

高値売却のためにも物的な面で事前に確認しておかなければならないのは、特に以下の
ようなことです。

 

【チェックポイント】

 

①境界線・越境物

②地中障害・土壌汚染

③アスベスト

④PCB(ポリ塩化ビフェニル)

⑤がけ・擁壁

 

それぞれについて確認していきましょう。

 

チェックポイント①境界線・越境物

 

まず一つ目、土地の物的な条件で気をつけなければならないのは、「境界線や越境物の問題」です。境界線については明確に「ここから、ここまで」という範囲が決まっていることが第一条件です。望ましいのは、道路を含む全ての隣地との境界について境界確認書があることです。そうでないと、分筆登記もできず、買主に納得してもらえません。

 

道路を含む全ての隣地から境界確認書を取り受けるには、少なくとも2~3カ月の期間が必要です。境界問題が起こりやすいのは、昔からあって、これまでに売買をされてこなかった土地です。そういう土地はしばしば、お隣との境界が曖昧なことがあります。あえて境界を明確にしなくても、今まで通り住んでいく分には何も困ることはないからです。

 

そのような土地では、お互いの間で話し合ったり取り決めを交わしたりはしなくても、「大体ここら辺からこっち側がうち、そっち側がお隣」という感覚があるものです。

 

しかしながら、いざ土地を売ろうとして境界を確定しようとすると、お隣とこちらとで「ここら辺」の感覚がズレていることがあります。境界にあるブロック塀の外側と内側で境界線の主張が食い違うなど様々な問題が挙がってきます。何か問題が出てくると、ずっと仲良く助けあってきた両家が土地の境界で揉めてしまうということも、残念ながらよくあることなのです。

 

これから自分の費用負担で塀を設けるという場合、塀は境界線を越えないように作ることが原則です。隣地の日照、通風等、環境にも影響を及ぼしますので、隣地所有者の意向を踏まえて、高さ、材質を決めるのが望ましいといえます。

 

越境線上にまたがって自分の塀を設置してしまったら、境界線を越えた部分については越境したことになります。塀の工事業者の中には、境界線上にまたがって設置することが注文者の利益になるという誤った考えをする人もいますので、注文する場合には越境しないよう指示することが必要です。

 

また、越境は地上だけでなく地中も対象になることを忘れてはいけません。例えば、地中に越境している配管なども注意です。もし何らかの事情で、自分の家の排水管が隣地を経由しているかどうかを調べることになったら、排水経路の確認方法として、自分の家の排水の起点(例えばトイレとか流し)で牛乳を流し、排水の下流と思われる位置の排水枡マスに牛乳が流れてくるかどうかで調べることができます。

 

越境配管がよくあるのは、昔、ある一帯の地域が一人の地主の所有していた借地で、その後、底地が各借地人に分割譲渡された土地などです。借地の時には、一人の地主の所有ですから、各借地人の間での境界はあまり気にされません。境界のはっきりしない土地は「分筆登記ができないので売買ができない」「隣接する土地との間で争いの火種になりやすい」という点で厄介です。

 

万が一、境界が曖昧なまま強引に売ってしまうようなことがあれば、買主が後で処理しなくてはならなくなります。そんな土地を欲しがる買主はまずいませんし、探そうと思ったら購入価格をうんと下げないと見つかりません。

 

そこで、土地の境界問題はオークション前に対処しておくのですが、すべての隣接地との境界確認書がある状態がゴールになります。角地でなければ前後左右の4カ所以上で境界確認書が必要だということです。どこか一カ所でも境界が未確定であれば「課題あり」と見なし、早急に解決に動かなくてはなりません。実は境界確認書がない場合は往々にしてあるものですが、土地家屋調査士に依頼して境界を明確にしていきます。

 

ちなみに、測量には大きく二つの方法があります。ひとつは、現況のまま測る「現況測量」です。これは勝手に自分が測量するだけなので、境界を決めることまではできません。

 

もうひとつは、道路を含む隣接地の所有者の立会いのもとで行う「確定測量」です。この時には、お隣さんに「ここを境界点・境界線にしてよいです」という承諾を境界確認書でもらうことになるので、はっきりと土地の範囲を確定することができます。

 

後者の確定測量をしておくと、買主は安心して土地の購入を検討できるため、高く売却できる可能性が高くなります。土地の境界問題では印象的なエピソードが二つあったので、ここで紹介しておきます。

 

【事例1】隣人が境界確認書に判子を押してくれない

 

隣の地主の立会いのもとで確定測量を行ったのですが、その地主が境界そのものは認めてくれるものの、個人的なポリシーで境界確認書には判子を押してくれないというケースがありました。

 

無理に判子を押させるということはできませんから、この問題を解決するには、少々複雑な方法が必要となりました。我々は登記官に直接交渉することにしたのです。実は境界確定において境界確認書は、なければならないという原則ではありません。原則は登記官が対象地を見て「この境界線で間違いない」と判断することなのです。

 

ただ、世の中にはごまんと取引があるため、いちいち登記官が赴いて確認することができません。それで境界確認書で補うのが通例になっているのです。隣の地主の境界確認印が図面にあれば、登記官はこの境界線は正しいものだという前提で分筆を認めてくれるということです。

 

ちょうど我々のもとに隣の地主から「境界は認めるが、確認書に判子は押したくない」との意思を伝える手紙が送られてきていましたので、それを法務局に提出して登記官に直接読んでもらうことにしました。すると登記官は「境界そのものが了承されているのであればOK」と判断し、境界を認めてくれたので無事に分筆ができました。こういうイレギュラーなケースに機転を利かせてどれだけ対応できるか、というのが事前準備では大きな分かれ道になります。

 

境界確認書を取り受けるタイミングについても、確認書をもらうべき隣地の地主が対象地を取得したがっているような場合には、売却の話は伏せて確認書をもらう方がベターです。売却の話を先にしてから確認書をもらおうとすると、その確認書の見返りを求められるなどの恐れがあるからです。

 

また、測量する土地家屋調査士の能力によって穏便に事が進む場合もあれば、逆に起こさなくてもよいトラブルが起こることもあります。ですから、我々も土地家屋調査士を誰に頼むかということには気を配ります。道路を管理する役所や登記官との折衝能力いかんによって、話がスムーズに通ったり、こじれて長引いたり、あっけなく否認されたりするからです。

 

最初から区画ができていて、資料もそろっていて、まず争いが起こることはないだろうと思われる分譲地などは、資格をもった土地家屋調査士であれば問題ありません。しかし、「これはちょっと難しそうだな」と思われる物件については、折衝能力や交渉能力の高い人に頼む必要があります。これは単に経験年数の長いベテランに頼めばよいという話ではなく、年齢は若くても状況判断に優れ、上手にネゴシエーションを進めていける人を見極めて依頼するということです。

 

【事例2】境界立会を拒否されたときの奥の手、カミソリ分筆

 

確定測量を行うために隣地の地主に声をかけようとしたのですが、本人が高齢で老人ホームにいるため立ち会えず、その息子たちにお願いしたところ、推定相続人間の思惑からか、立会いを拒否されたことがありました。これでは境界を確定することはできず、オークションでの売却に難が付きます。

 

そこで、この状態を解決するために我々がとった方法は、図表のように売主自身の土地を幅1㎝削ることでした。この手法は業界用語で「カミソリ分筆」というのですが、互いの土地の間に幅数センチほどの細長い土地を作って、隣地と接しないように自分の土地の中で境界を確定する方法です。

 

[図表]カミソリ分筆のイメージ

 

これによって、売主の土地は幅1㎝小さくなりますが、境界確定できない間は土地の売却もできません。そのままにしておいても手間と費用ばかりかかってしまい、売主のメリットはどんどん小さくなっていくばかりです。今、損をしてでも境界を確定したほうが高値売却に繋がるので、結局は得策であることをよく説明して、このときは売主の了解を得ることに成功しました。時には「損して得とれ」の方式で問題解決を図ることもあります。

 

他にも土地によっては、所有者が行方不明で連絡がつかなかったり、戦前に登記された土地で所有者の所在を確認しきれなかったり、といった理由で、境界確定が容易ではない場合も多くあります。明らかに境界確定が不可能だと感じたときには、どこかで見切りをつけるしかありません。その見切りのタイミングもまた経験がものをいいます。登記については、現在の法律では相続が発生しても相続人が相続登記をすることが義務づけられないため、公共事業や土地取引の障害となっており、相続登記の義務化が法務省で検討されています。

 

チェックポイント「②地中障害・土壌汚染」については、次回詳述します。

 

 

土屋 忠昭
株式会社共信トラスティ 代表取締役
不動産鑑定士

 

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    土屋 忠昭

    幻冬舎メディアコンサルティング

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