税務調査官が最初に確認したもの
相続税の申告からしばらくして、税務署から税務調査の連絡が入った。高田社長の財産規模を考えれば、家族も税理士も、調査の可能性は想定していた。
調査初日、調査官は高田社長の経歴や家族関係、会社の状況などを質問した。
保有不動産についても確認したが、路線価や賃貸状況について細かな議論を続けるわけではなかった。
ひととおりの質問を終えると、調査官は話題を変えた。
「高田さんは、和歌山銀行に貸金庫をお持ちでしたね」
里子さんの表情が、わずかにこわばった。
「はい。ただ、権利証などを入れていただけです」
「午後から、確認させていただけますか?」
当日、銀行で貸金庫を開けることになった。
無機質な金属の扉から取り出した封筒類を、調査官は1つずつ確認していった。不動産の権利証、保険証券、会社の株主関係書類、印鑑、現金…。
そして、貸金庫の隅には、無造作に折りたたまれた小さな紙片が落ちていた。一見するとそれは、ただの紙屑のようだった。
調査官は奥に手を差し入れると紙片をつまみ出し、丁寧に広げた。
「6/4 よしと30」
「6/18 ちか20」
「7/2 たけし30」
そこには日付、子どもや孫と思われる呼び名、20や30といった数字が並んでいた。
「奥様、これは…?」
調査官は、紙片の走り書きを現金交付の記録ではないかと考えたのである。
