「ワテ、もう限界や」67歳・町工場社長の悔し涙。高齢従業員多数、後継者も見つからず…売却決意も、想定外の着地に「なにかの間違いでは?」【税理士が解説】

「ワテ、もう限界や」67歳・町工場社長の悔し涙。高齢従業員多数、後継者も見つからず…売却決意も、想定外の着地に「なにかの間違いでは?」【税理士が解説】
(※写真はイメージです/PIXTA)

日本の中小企業には、世界に誇る技術を保有しながらも後継者不足に悩み、存続を諦めるところが少なくありません。解決策のひとつである中小企業M&Aの実情について、税理士の都鍾洵(みやこ しょうじゅん)氏が事例をもとに解説します。

「若い子が来ても、続かんのや…」町工場の経営者、人材難に苦悩

日本の全企業数のうち99%を占める中小企業には「後継者難」という課題が表面化している。

 

「もう限界や…」

 

そういって涙をぬぐうのは、関西で金属加工業を営む67歳の社長の相川氏(仮名)だった。

 

先代が創業し、相川社長で2代目となる町工場は、長年にわたり大手メーカーの孫請けとして安定した受注を確保。ピーク時には年商5億円近くを計上し、地域ではそれなりに知られた存在だった。

 

しかしここ数年、状況は大きく変わった。最大の問題は「人」である。工場で働く従業員は15名ほど。そのうち半数以上が60歳を超えている。熟練の技術者が多い一方、新たな人材はなかなか採用できない。

 

「若い子が来ても、続かんのや…」

 

肩を落とす相川社長だったが、彼自身も67歳。体力的に厳しくなってきていた。50代でヘルニアを発症して以来腰痛がひどく、現場に立つ時間は減っている。

 

後継者もいない。一人息子は関東で国家公務員として働き、生活基盤も家族もある。事業承継の意思がないことも、本人からハッキリと告げられていた。

 

信頼を寄せる工場長の井端氏(仮名)にも声を掛けたが、「私も還暦を過ぎてます。早晩また誰かを探さないとならなくなります」と固辞された。

廃業覚悟のタイミングで銀行から提示された選択肢

「このままやと、どこかで終わらせなあかん…」

 

相川氏は当初、廃業を考えていた。ところが、そう思っていたタイミングで、金融機関から「M&A」という選択肢を提示された。会社を売却し、事業を引き継いでもらうという方法である。

 

「従業員も守れるし、取引先にも迷惑をかけずにすむのか…!」

 

そう考えた相川氏は、金融機関から紹介されたM&A仲介会社と契約。財務資料も提出した。

 

ほどなくして、いくつかの買い手候補との面談を経たのち、ある企業から具体的な条件提示があった。

 

「この金額は…なにかの間違いでは?」

 

提示された譲渡価格は、相川氏の想定を大きく下回るものだった。年商は今も2億円以上あり、黒字も維持している。金融機関からの借入も1,000万円程度で、いつでも手元預金で返済できる水準だ。それなのに、評価は驚くほど低い。

 

買い手側の評価はこうだ。

 

●主要取引先は相川氏の人脈に依存しており、会社が変わったら取引が継続されない可能性がある

●技術は熟練職人である高齢社員に属しており、若手に技術移転されていない

●製造設備が老朽化しており、機械の更新が進んでいない

 

理由は明確だった。つまり、この会社は「組織」ではなく「人」で成り立っているという評価である。これは中小企業によくある構造だが、M&Aの観点では、この点が大きく評価を下げる要因になる。

 

しかし、相川氏は最終的に、提示された条件で売却を決断した。理由はシンプルだった。

 

「わしが社長のまま続けても、誰も幸せにならんやろ」

 

自分が倒れれば会社は止まる。従業員は路頭に迷い、取引先に迷惑がかかる可能性がある。それなら、多少条件が悪くても、引き継いでもらった方がいいと腹をくくったのだ。

 

しかし、問題は売却後に起きた。

売却後に起きた問題

買収した企業は、すぐに経営方針の見直しを行い、勤務時間の変更、評価制度の変更、業務フローの見直しに着手した。だが、これにより、ベテラン従業員の一部が退職してしまったのである。

 

「こんな結末は、想定外だ…」

 

実情を知った相川氏は思わずつぶやいた。

 

M&Aというと、どうしても「いくらで売れるか」に目が行きがちだ。しかし実際には、「従業員が残るか」「顧客が継続するか」「組織が維持できるか」といった条件のほうが、中小企業のM&Aでは、重要になるケースが多い。

 

また、仲介会社は構造上「成約」に重きを置くことになる。成約したときにはじめて売上が立つ成功報酬だからだ。

 

そのため、M&Aの相談をするのであれば、すでに面識があり、できれば会社の財務を普段から見ている、例えば中小企業診断士や経営コンサルタント、顧問税理士に相談しながら取引を進めることが望ましい。

 

信頼できる専門家から、セカンドオピニオン、財務・税務・法務DD(デューデリジェンス=監査)、条件の整理といった後方支援を受けることで、意思決定の質を高めることができる。

 

適切な専門家が見当たらない場合は、下記の条件をなるべく多く満たす経営者仲間に相談することで、適切な助言や専門家の紹介を受けられるだろう。

 

条件① 決算書が読める

条件② 守秘義務が守れる

条件③ 取引上の利害関係が少ない

条件④ 直近3ヵ月で1回は顔を見ている

条件⑤ M&Aをしたことがある(売り手側でも買い手側でも)

条件⑥ 親友以下、他人以上(親族や親友など、過度に感情移入しない人)

 

あるいは、事業承継引継ぎ支援センターというM&Aに特化した公的機関も各都道府県に設置されているので、ぜひ活用してほしい。

まとめ

相川氏の事例は決して特殊なものではない。中小企業のM&Aでは、売れるか、いくらになるか以上に、どのように引き継がれるかが重要になる。

 

まずは、仲介会社任せにせず、M&Aに知見のある顧問税理士などの士業専門家や経営者仲間、公的機関に相談することが、成功(納得できる)確率を上げる大きなポイントになるのだ。

 

 

都 鍾洵
税理士

 

 

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