「まだ減らせる」が止まらない
今度は「もっと減らせるものがあるのではないか」と考えるようになった聡子さん。
「なくても困らないから」と、リビングのラグやソファ、壁に飾っていた絵、雑貨や観葉植物まで処分。床には何もなく、棚の上もスカスカ。その余白に聡子さんはうっとりしていましたが、夫の敏郎さんは違いました。
ある日の夕食後、ぽつりと口にします。
「……この家、ホテルみたいで落ち着かないな」
決定的だったのは、敏郎さんの買い物でした。出張先で陶器のマグカップを買ってきて、「これ、なかなか良いだろ?」 と嬉しそうに見せる敏郎さん。しかし、聡子さんは反射的に言ってしまいました。
「それ、本当にいるの? マグカップならあるじゃない。せっかく減らしたのに」
それから、敏郎さんは買い物の話をしなくなりました。「俺の物だけは触らないでくれ」と、本を買っても見せない。工具を買っても言わない。趣味用品はすべて自室へ運び込みます。
以前のリビングは物にあふれていましたが、夫婦でテレビを見ながらおしゃべりをする場所でもありました。しかし、敏郎さんはすっかり自室にこもるように。夫が消えたリビングで、聡子さんは自分の間違いに気づきました。

