定年翌日の夕方、妻は家にいなかった
定年退職した翌日、昭彦さん(仮名・60歳)が目を覚ましたのは午前8時過ぎでした。前日までは6時半に起きて会社へ向かっていましたが、この日は予定がありません。
朝食を終えると新聞を読み、テレビを見ているうちに昼になりました。
妻の明美さん(仮名・58歳)は午前中からパートへ出ています。冷蔵庫には前夜の残り物があり、昭彦さんはそれを温めて昼食にしました。
夕方になっても、明美さんは帰ってきません。午後6時半を過ぎたころ、昭彦さんが電話をすると、明美さんは少し驚いた様子でした。
「今日、友達と食事に行くって前に言ったでしょう」
「夕飯は?」
「何か食べて。冷蔵庫に卵もあるし、冷凍ご飯もあるから」
電話が切れたあと、昭彦さんはしばらく台所に立っていました。
料理はほとんどしたことがありません。結局、冷凍ご飯を温め、インスタントの味噌汁を作り、缶詰を開けました。
一人で食卓に座ったとき、思わずこんな気持ちが浮かんだといいます。
「家族を養ってきた俺が、なぜ退職した次の日にこんな夕飯を食べているんだろうって。正直、腹も立ちました」
昭彦さんは大学卒業後、約38年間会社員として勤務。帰宅は遅く、管理職になってからは休日に仕事が入ることも珍しくありませんでした。
明美さんは子どもが小さいころは専業主婦、その後はパートで働きながら、食事、洗濯、掃除など家庭のことをほぼ一人で担ってきました。
翌朝、昭彦さんは明美さんに不満を口にしました。
「定年したばかりなのに、昨日くらい家にいてくれてもよかったんじゃないか」
すると明美さんは、こう返しました。
「あなたが退職したからって、私の生活まで全部変わるわけじゃないよ。これから毎日家にいるなら、自分のご飯くらい自分でできるようになって」
総務省『令和3年社会生活基本調査』によると、1日の家事関連時間は男性51分、女性3時間24分で、男女差は2時間33分あります。また、無償労働時間でも男性1時間19分、女性3時間56分と大きな差がみられます。現役時代から家事をほとんど担ってこなかった場合、退職後にその差が急に表面化することもあります。
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