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〈登場人物〉
吉田課長:A社で働く課長。3人きょうだい(吉田さん、弟、妹)の長男で、2人の子を持つ。税理士とは業務上のやり取りがある。
「遺産分割協議」で話し合うべき“遺産以外”の財産負担
吉田課長「相続税って、遺言や遺産分割協議がまとまったあとに計算するんですよね?」
相続税の計算が3段階に分かれていることを区切って計算することを確認した吉田課長と税理士。吉田課長は、相続税を計算する“タイミング”に疑問を持ったようです(『複雑な相続税申告、「税理士に丸投げ」では済まされない…相続人が避けられない“たった1つの重要な仕事”【税理士が解説】』)。
たしかに、各相続人や受遺者がどの財産を受け継ぎ、どの債務を引き継ぐかが決まらない限り、それぞれが負担する相続税額は確定しません。
吉田課長「でも、正直なところ、遺産分割の協議に入る前に、相続税がだいたいどれくらいかかるのか知っていたいのですが……」
なるほど、これは重要な視点です。たとえば、相続人Aが金融資産のみを、相続人Bが不動産のみを相続するような場合には、事前の概算が不可欠です。
吉田課長「はい。この例でいうと、金融資産を相続しないBさんの相続税負担が問題になりますよね」
そのとおりです。相続人Bは不動産のみを相続するため、もし相続税が高額になった場合、自分が持っている金融資産だけでは相続税を支払えない可能性があります。したがって、遺産分割協議の際には、財産そのものだけでなく、相続税の負担額も考慮すべきです。
相続税は、ある意味“マイナスの相続財産”ともいえます。別の視点からみると、遺産分割協議と並行して、相続税の仕組みを活用して「どう相続税負担を減らすか」を検討することが重要といえます。
相続税を抑えるには、「特例」の活用がカギ
吉田課長「この点について、具体例で説明してもらえますか?」
わかりました。その前にまずは、前提となる相続税の計算の仕組みをおさらいしておきましょう。
【相続税の計算手順】
■第1段階
次の順序で課税遺産総額(⑥)を算出し、それに基づいて相続税の総額(⑦)と各相続人等への配分額(⑧)を計算する。
①相続財産の確認、評価
②債務、葬式費用の確認、評価
③相続税の計算に取り込む贈与財産の確認、評価
④課税価格(①−②+③)
⑤相続税の基礎控除額
⑥課税遺産総額(④−⑤)
⑦各相続人等の全員の相続税の総額(⑥に基づいて計算)
⑧相続税の総額の各相続人等への配分額
■第2段階
各相続人等の⑨〜⑭の個別事情に応じて、税額の加算・減算を行う。
⑨一親等の血族、配偶者以外の相続人等
⇒相続税額の2割加算
⑩配偶者
⇒配偶者に対する相続税の軽減措置
⑪未成年者
⇒未成年者控除
⑫障害者
⇒障害者控除
⑬前回の相続(例:父)の相続から10年以内に今回の相続(例:⺟)がある場合
⇒相次相続控除
⑭外国に相続財産がある場合
⇒外国に支払った相続税額の控除
■第3段階
各相続人等ごとに、最終的な相続税額を計算する。
図表のような計算になる。
吉田課長「第1段階は、相続人全員にかかる相続税の総額を計算するんでしたよね。そして第2段階が、個別の事情に応じた特例による加減算。第3段階でようやく、最終的な納税額がわかるという流れでした」
そのとおりです。正確には、相続税の総額を計算したあと、それを各相続人等に配分するまでが、第1段階です。続いて第2段階は、個々の相続人等の事情に応じて特例を適用するために、相続税額の加算・減算を行います。
そして第3段階は、第1段階で配分された相続税額に、第2段階で算出した加算・減算を反映させて、相続人1人ひとりが支払う最終的な納税額が確定します。こうした特例は相続人の納税負担を大きく左右するため、相続税額を抑えるためには、遺産分割の検討段階から意識しておくことが重要です。
吉田課長「つまり、第2段階の特例をうまく活用することが重要になるということですね」
そのとおりです。特例のなかでも代表的なものとして、「配偶者に対する相続税額の軽減(相続税法19条の2)」があります。
吉田課長「配偶者に対する特例ですか。具体的にはどのような内容なんでしょう?」

