70代で決めた世界一周
「一度くらい、世界を見てみたかったんです」
そう話すのは、神奈川県内で一人暮らしをする中村洋子さん(仮名・74歳)です。洋子さんの年金収入は月8万円ほど。夫はすでに他界しており、現在は公営住宅で一人暮らしをしています。
転機となったのは、数年前に母が亡くなったことでした。
相続で受け取った遺産は約800万円。洋子さんは長い間、そのお金をどう使うか考えていたといいます。
「貯金にしておくべきかもしれないとは思いました。でも、 “自分の夢のために使ってみたい”とも思ったんです」
そのとき思い浮かんだのが、若い頃から憧れていた世界旅行でした。
旅行会社のパンフレットを見たとき、洋子さんは驚きました。世界一周ツアーは数百万円。長期間のクルーズや各国を巡るパッケージ旅行もありました。
「最初は夢みたいな話だと思いました」
それでも、考え続けるうちに「今しかできないかもしれない」という思いが強くなったといいます。
最終的に選んだのは、約4ヵ月で複数の国を巡る世界一周ツアーでした。費用は航空券や宿泊費、現地ツアーなどを含め、合計でおよそ800万円。
旅行中の記憶は、いまでも鮮明だといいます。ヨーロッパの街並み、南米の遺跡、クルーズ船から見た夕焼け。
「夢みたいでした」
ツアーで出会った人たちと食事をし、各地の景色を写真に収めました。
「こんな経験ができるなんて思っていませんでした」
帰国したとき、洋子さんは「やりきった」という気持ちだったといいます。
しかし、生活に戻ると状況は変わりました。
洋子さんの収入は、年金月8万円が中心です。家賃は公営住宅で抑えられているものの、光熱費や食費、医療費を支払うと、余裕はほとんどありません。
「旅行中は考えないようにしていました」
ただ、帰国してしばらくすると、現実がはっきり見えてきたといいます。
