(画像はイメージです/PIXTA)

上場投資信託(ETF)投資家からの需要回復ならびに中央銀行とアジアの個人投資家による根強い買いを受け、金価格は初めて1オンス3,000米ドルを突破しました。本記事では、ステート・ストリート・インベストメント・マネジメントが、金価格にはまだ上昇余地があると考える理由について解説します。

米国債の格下げ、財政不透明感は金の支援材料

経済は完全雇用の状態にあるなか、米国では財政赤字の対国内総生産(GDP)比率が6~7%と予想され、平時ではこれまでにない状況にあります※15。連邦政府赤字が34兆米ドル、年間の利払い費が1兆米ドルに迫るなか※16、投資家は米国の財政政策の持続可能性について疑問を強めつつあります。この懸念はアカデミックな議論だけでは終わりませんでした。5月16日、ムーディーズが米国を格下げし、スタンダード&プアーズ(2011年)、フィッチ・レーティングス(2023年)に続いて米国を格下げした3番目の主要格付け機関となりました。

 

米国債務の長期ソルベンシー(支払い能力)への信頼が損なわれたのと同様に、米ドルの購買力ならびに安全な逃避先というステータスへの信認も損なわれました。いずれ、こうした格付けや評価の低下は、特に海外資本が米国の財政ガバナンスの信頼性を疑問視し始めた場合、米ドルの対主要通貨の価値に圧力をかける可能性もあります。貿易戦争勃発の可能性がこうした懸念に拍車をかけています。

 

金には負債がなく、返済に依存せず、ポートフォリオにおける役割を利回りで正当化する必要がないため、こうした環境の下で、その安定した価値保存能力を発揮するでしょう。

中央銀行と金の再調整…モメンタム、目標、見通し

中央銀行は過去15年にわたり金の強力な追い風となっており、2022年のロシア・ウクライナ戦争勃発以降、年間純購入量は毎年1,000トン(t)を超え、主要鉱山の生産量の約25~30%を占めています※17

 

2025年の中央銀行による金の購入ペースは若干鈍化するものの、依然として順調に推移し、16年連続で買い越しになると当社は予想しています。最新データによると、第1四半期の中央銀行の純購入量は244トンと、前四半期からわずかに減少したものの、依然として大規模です――過去5年間の四半期平均を24%上回り、記録的な需要となった過去3年間の平均を9%下回るにとどまっています※18

 

外貨準備管理に関しては、2025年第1四半期の外貨準備に占める金準備の割合を発表した中央銀行上位20行のうち、90%が金準備の割合を引き上げました。新興国の中央銀行が引き続き主要な買い手となっています。

中央銀行の金のアロケーション目標

外貨準備の脱米ドル化を目指す動きが強まるなか、戦略的なアロケーション目標を達成するために中央銀行がいまなおどの程度金を積み増しする必要があるのかを推定しました。2025年第1四半期に発表された全中央銀行のデータに基づくと、外貨準備全体における金の目標配分比率は平均約22%で安定しています。金準備の目標を引き上げる動きは、「需要の追い風」が10年にわたり続く可能性を示しています※19

 

2025年末の中央銀行による金の純購入量を推定するため、最初に、最近発表された第1四半期の純購入量(244トン)を過去の季節性(パンデミックの打撃を受けた2020年を除く)を用いて調整しました。

 

当社の分析ならびに投資家との最近の会話に基づくと、2025年の中央銀行のネット需要は900~1,000トンとみるのが妥当だと考えられ、その場合1971年以降で4番目に高い水準となります※20

 

[図表5]1994年以降の中央銀行による金の純購入量と2025年の予想

出所:ICEベンチマーク・アドミニストレーション、メタルズ・フォーカス、リフィニティブGFMS、ワールド・ゴールド・カウンシル、ステート・ストリート・インベストメント・マネジメント。2025年3月31日時点のデータ。

(注)2025年の予想は、第1四半期の実際のネット購入額(244トン)を用い、2010~2024年の歴史的な季節性(特殊年を除く)で調整して算出しました。基本シナリオは第1四半期の需要の長期平均シェア(24%)を反映し、強気シナリオと弱気シナリオについては、購入ペースの上振れまたは下振れの可能性を考慮し、それぞれ19パーセンタイル値、80パーセンタイル値を適用しました。過去のパフォーマンスは将来のパフォーマンスの信頼できる指標ではありません。

 

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【注釈】
*経済的な混乱時に他の投資の価値が下落しても、価値が安定または上昇すると投資家に認識されている資産は、「セーフヘイブン(安全資産)」と見なされることがあります。ただし、こうした資産が常に価値を維持するという保証はありません。

※1 ミシガン大学調査、2025年4月
※2 ブルームバーグ・ファイナンスL.P., ステート・ストリート・グローバル・アドバイザーズ、LBMA、2025年5月
※3 ブルームバーグ・ファイナンスL.P., ステート・ストリート・グローバル・アドバイザーズ、2025年5月
※4 ブルームバーグ・ファイナンスL.P., ステート・ストリート・グローバル・アドバイザーズ、2025年5月
※5 ワールド・ゴールド・カウンシル、2025年4月
※6 ブルームバーグ・ファイナンスL.P., ステート・ストリート・グローバル・アドバイザーズ、2025年5月.
※7 中国海関総署、ステート・ストリート・グローバル・アドバイザーズ、2025年4月
※8 LBMA、SGE、2025年5月
※9 国際金融協会、2025年3月31日
※10 米国投資信託協会、2025年5月20日25.
※11 ブルームバーグ・ファイナンスL.P., ステート・ストリート・グローバル・アドバイザーズ、2025年5月31日時点
※12 ブルームバーグ・ファイナンスL.P., ステート・ストリート・グローバル・アドバイザーズ、2025年5月31日時点
※13 ブルームバーグ・ファイナンスL.P., ステート・ストリート・グローバル・アドバイザーズ、2025年5月31日時点
※14 ブルームバーグ・ファイナンスL.P., ステート・ストリート・グローバル・アドバイザーズ、2025年5月31日時点
※15 米国議会予算局、ステート・ストリート・グローバル・アドバイザーズ、2025年5月31日時点のデータ
※16 米国議会予算局、ステート・ストリート・グローバル・アドバイザーズ、2025年5月31日時点のデータ
※17 ワールド・ゴールド・カウンシル、2025年5月
※18 ワールド・ゴールド・カウンシル、2025年5月.
※19 ワールド・ゴールド・カウンシル、ステート・ストリート・グローバル・アドバイザーズ、2025年5月
※20 ステート・ストリート・グローバル・アドバイザーズ、2025年5月
※21 ワールド・ゴールド・カウンシル、グローバル需給トレンド、2025年5月.
※22 東京証券取引所、2024年12月31日
※23 ワールド・ゴールド・カウンシル、2025年2月
※24 グローバル需給トレンド、ワールド・ゴールド・カウンシル、2024年7月
※25 グローバル需給トレンド、ワールド・ゴールド・カウンシル、2024年7月
※26 グローバル需給トレンド、ワールド・ゴールド・カウンシル、2024年7月

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