欧州経済の見通し
ユーロ圏経済:不確実性を生む混乱
【成長見通し】中立的懸念
・米国が保護主義を強化し、世界の安全保障における役割を再評価していることから生じる不確実性が重荷となり、ユーロ圏の成長は今年も低水準にとどまると予想されます。これにより既存の構造的弱点が悪化し、すでに高まっている国内経済の不確実性が増す可能性があります。しかし、地政学的状況の変化が欧州の対応を促しています。ドイツはインフラ整備と防衛費を拡大するための歴史的な財政パッケージを発表し、欧州連合(EU)加盟国は欧州の軍事費に関する新たな枠組みについて議論しています。いくつかの課題は残っているものの、根本的な変化が進行中で、これは、中期的な成長見通しがより興味深いものになってきていることを意味しています。
・米国の潜在的な関税の影響を予測するのは困難です。現在、トランプ米大統領が提案したさまざまな措置の範囲、規模、時期に関する詳細は不明です。EUの輸出依存度は、実施される措置にもよりますが、国内総生産(GDP)の0.1%未満から0.5%の範囲になると推定されます。しかし、さらなるセクターが関税対象となる可能性や、より厳しい関税が発表される可能性もあります。米国の関税引き上げによる直接的な影響は比較的小さいものの、不確実性の高まりは投資への信頼感を圧迫し、経済成長にとってより大きな問題となると思われます。EUのインフレは、米国製品の輸入に対する報復の範囲が限定的なため、重大な影響を受けることはないと予想されますが、米国のハイテク大手のサービス輸入に対する監視が強化される可能性があります。
・長年の支出不足を経て、EUは新たな防衛の枠組みを模索しています。米国が世界の安全保障における役割を再評価しているため、EUはいわゆる「平和の配当」の恩恵を受けることができなくなりました。防衛費を現在のGDPの2%より増やすことは避けられませんが、EUは短期間で解決策がないいくつかの問題に直面しています。多くの国で政府の赤字と債務が依然として高水準にあり、EUまたは超国家的な資金調達の選択肢には重大な政治的合意が必要です。さらに、欧州における軍事装備の供給は新たな需要を満たすには不十分であり、大部分を輸入せざるを得ない可能性が高いと思われます。一方で、ドイツでは財政規律の全面的な見直しを進めており、防衛とインフラ投資の拡大に向けた支出がさらに押し上げられることになりますが、いずれも時間がかかります。したがって、こうしたパラダイムシフトによる短期的な影響は限定的と思われますが、中期的な成長見通しは改善しているように見えます。
・このような不確実性を背景に、ECBは依然として慎重な姿勢を維持しています。3月の金融政策決定会合では、ECBのクリスティーヌ・ラガルド総裁が、内外の要因によって引き起こされる不確実性が「並外れて高い」と強調しました。これは、ECBが今後、データへの依存度をさらに高めることを意味すると考えられます。短期的な成長見通しが依然として厳しいため、今年も追加利下げの可能性はありますが、ECBの選択肢は広がっています。