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米大統領選挙の不確実性が一部解消された今、経済および金融市場の見通しをどのように再評価すべきでしょうか。フランクリン・テンプルトン債券グループCIO(最高投資責任者)のソナル・デサイが、注目ポイントを解説します。

※本記事は、フランクリン・テンプルトン・ジャパン株式会社が2024年11月18日に配信したレポートを転載したものです。

〈〈元のレポートはコチラ〉〉

新政権下での経済の見通し

米大統領選挙の不確実性が一部解消された今、経済および金融市場の見通しをどのように再評価すべきでしょうか。

 

トランプ次期大統領は、税率の引き下げや規制に対する軽減策を進めると約束しており、ハリス候補による政権よりも規制を緩和する方向が見込まれています。上院で共和党が多数を確保しましたが、新政権が実現できる施策は、下院の支配状況にも依存します(本稿執筆時点では下院の支配は未定です)。

 

この点を考慮すると、2025年末で期限切れを迎える2017年の税制改革法(TCJA)による減税措置の延長が議会を通過する可能性が高いと予想しています。また、トランプ次期大統領は、チップや残業手当、社会保障給付の所得税免除を含む幅広い税優遇措置を約束しています。さらに、家族介護者への税控除、自動車ローンの利息控除の導入も示唆しています。

 

ただし、これらのアイデアが政策としてどの程度実現されるかについては、依然として大きな不確実性が残っています。また、今回の選挙結果により、ハリス候補が選挙キャンペーンで提案していた法人税の大幅な引き上げの可能性はなくなり、逆に追加の法人税引き下げの可能性が開かれるかもしれません。

 

簡素化された規制体制と減税の組み合わせは、これまで株式市場で見られた前向きな反応と一致しており、経済成長を後押しする可能性が高いと考えられます。しかし、以前から指摘してきた通り、こうした施策はすでに懸念される水準にある財政赤字をさらに拡大させる可能性があります。この成長促進策は連邦債務残高の増加傾向を維持させることとなり、国債発行に対する圧力も一層強まるでしょう。

 

成長見通しが強まれば、現在進行中のディスインフレ・プロセスにとって逆風となり得ます。したがって、連邦準備制度(FRB)が掲げる2%のインフレ目標への収束は、これまで予想されていたよりもゆっくりとしたペースになる可能性があり、私自身の(市場よりもやや悲観的な)見通しよりもさらに遅れることもあるかもしれません。

 

関税政策は予測が難しい要素と言えるでしょう。トランプ次期大統領は10~20%の包括的な関税、さらには中国からの輸入品に対して最大60%の関税を検討していると発言しています。私はこれを重大なリスク要因と見ていますが、現時点での基本予測には含めていません。

 

共和党の上院議員の一部は、こうした包括的な関税に反対する可能性があり、その場合、議会の承認を回避するための立法上の工夫が求められます。万が一このリスクが現実化した場合、その影響はどうなるでしょうか。トランプ氏の第1期政権で課された関税は、個別商品の価格上昇を招いたものの、全般的なインフレの急騰は引き起こしませんでした。これは、当時の安定した価格環境も一因です(図表参照)。

 

[図表]

 

ただし、もし第2期政権で包括的な関税が導入されると、消費者物価にもう少し大きな影響を及ぼし、最大0.5%の上昇を招く可能性があります。この上昇は一時的なものであり、ディスインフレへの道への障害にはなり得ますが、インフレの再燃を引き起こすほどの影響はないと考えています。アメリカは本質的に大規模な閉鎖経済であり、成長への影響は比較的限定的と思われます。

 

ただし、関税政策の実施方法によっては、世界経済に不要な変動を生じさせる可能性があります。過去に見られたような「ツイートによる貿易政策」は、不確実性を一層高めるでしょう。さらに、米国の関税が引き金となり、広範な貿易戦争が勃発すれば、世界経済に対する悪影響も一層深刻になるかもしれません。

 

また、移民政策もインフレ圧力の一因となり得ると注目されていますが、成長やインフレへの影響はわずかなものに留まると考えています。トランプ氏は大規模な強制送還の可能性を示唆していますが、短期間で実行可能なものではないでしょう。

 

私の見解では、国境管理が強化されることで、過去4年間の極めて高い水準にあった純移民流入が大幅に減少する方がより現実的と思われます。米国の労働力全体の規模や、すでに労働需要が冷え込んでいる状況を考慮すると、成長とインフレへの影響はほとんど無視できる程度にとどまるでしょう。

 

この段階での重要な問いは、トランプ氏の計画がどのようにFRBの政策に影響を及ぼすかです。選挙から2日後という難しいタイミングで政策記者会見を行うことになったパウエルFRB議長は、終始慎重な姿勢を崩しませんでした。質疑応答の中で、FRBとしては実際の政策立法を見極める必要があり、将来の財政政策について推測や予測を行うことは決してしないと述べています。

 

ただし、パウエル議長は経済見通しについては以前よりも楽観的なトーンを見せました。彼は、成長への下振れリスクが和らぎ、労働市場が依然として堅調であることを指摘しました。また、賃金上昇が依然としてインフレ目標に適合する水準を超えていると述べており、これは近年の高い生産性成長率が鈍化する可能性を考慮したものです。さらに、各地域のFRB理事からの報告によると、企業のCEOは需要見通しや経済全般に楽観的であり、労働市場の状況にも満足しているとのことです。

 

パウエル議長は総じて、米国経済は強固であり、企業経営陣も来年はさらに強くなる可能性があると感じていると述べました。米国債利回りの上昇について質問された際、議長個人としては成長見通しが明るくなったことが主な要因であると捉えていると示唆しました。議長の発言からは、インフレが引き続き低下するとの自信を示しながらも、12月に利下げサイクルを停止するための選択肢は準備しているように感じられました。

 

パウエル議長は、トランプ新政権が議長に辞任を迫ったり、降格させたりする可能性についても質問を受けましたが、冷静かつ正確な言葉で、米国大統領にはその権限がなく、また辞任の要請があっても応じないと答えました。つまり、FRBは制度的に独立しているため、大統領府が金融政策に直接的な影響を及ぼすことはありません。

 

では、これが債券市場にとって何を意味するのでしょうか。より強い成長、持続的なインフレ圧力、そして増加する債務は、債券利回りの上昇と、FRBが利下げに慎重な姿勢をとることにつながります。これは、記者会見でのパウエル議長の発言とも一致しています。

 

したがって、私の見解としては、フェデラルファンド(FF)金利は4%前後で底を打つと確信しています。この予測は選挙前からのもので、経済活動の堅調さと中立金利の私自身の推計に基づくものです。このことは、現在の約4.40%の10年物米国債利回りは過度に高い水準ではないことを意味しており、強い成長見通しが引き続き信用ファンダメンタルズを下支えすると考えられます。ただし、現在スプレッドが非常にタイトであることを考えると、さらなるスプレッド縮小の余地は限られているように見受けられます。

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