円安による割安感と中国人観光客の回復傾向がカギに
円安と中国人観光客の回復でモノ消費3割、消費額増にはサービス消費の促進が鍵
次に訪日外国人旅行消費額の内訳について見ると、中国人の「爆買い」が流行語となった2015年*頃は「買い物代」の割合が約4割を超えて高くなっていた[図表7]。しかし、その後コロナ禍前までの間は、中国政府による関税引き上げや、サービス消費志向の高い欧米からの訪日客の増加に伴い、「買い物代」の割合は低下し、「宿泊費」や「飲食費」、「娯楽等サービス費」の割合が高まる傾向にあった[図表7]。
*「爆買い」は2015年のユーキャン新語・流行語大賞における年間大賞。
さらに、5類引き下げ以降、インバウンドが再開して当初は、訪日中国人観光客の回復が遅れ、欧米からの訪日客が増加したことで「買い物代」の割合は約4分の1まで低下した。しかし、円安による割安感が高まるとともに、訪日中国人観光客の回復が進み、「買い物代」の割合は再び上昇し、2024年4-6月期には30.9%となり、3割を超えた。直近の半年間ではやや低下しているものの、約3割を維持している。
以上のように、足元では再びインバウンド消費においてもモノを買う志向が高まっているものの、中長期的な傾向としては、国内の日本人の個人消費と同様に、モノの購入よりもサービス(体験)を楽しむ志向へとシフトしている。また、2018年に「娯楽サービス費」に温泉やリラクゼーション、医療施設の利用などが追加されたように、政府もインバウンドによるサービス消費の需要拡大を目指している。
なお、インバウンド消費額が世界最大である米国(2022年に1,369億米ドルで首位:国土交通省「観光白書(令和6年版」)では、2023年の「娯楽等サービス費」は13.5%を占めて体験消費が多い傾向がある[図表8]。
一方、日本では5.1%と3分の1程度にとどまり、要因としては特にナイトタイムエコノミー(夜間消費)に関連するサービスの少なさが指摘されている*。また、夜間消費の拡大は1人当たり消費額のさらなる拡大を考える上で、一定の潜在余地があるだろう。
*久我尚子「インバウンドで考えるナイトタイムエコノミー-日本独自の夜間コンテンツと街づくりの必要性?」、ニッセイ基礎研究所、研究員の眼(2024/7/24)や観光庁「ナイトタイムエコノミー推進に向けたナレッジ集」など。


