(写真はイメージです/PIXTA)

訪日外国人の数が急速に回復し、2024年にはコロナ禍前を上回る水準に達しました。また、訪日客の増加率を上回るペースで消費額も拡大し、1人当たりの支出額も過去最高水準に。円安や低いインフレ率が影響し、日本旅行の「割安感」が消費を後押ししているようです。訪日外国人の動向はどのように変化しているのでしょうか。国籍別の消費パターンとともに、その特徴をみていきましょう。本稿では、ニッセイ基礎研究所の久我尚子氏が詳しく解説します。

価格設定の見直し、システムや人材への十分な投資を

インバウンドの勢いがいよいよ強まる中、本稿では政府統計を用いて2024年10-12月期までの消費動向を分析した。消費額は円安による割安感や国内の物価上昇の影響で、2024年の訪日外客数は3,000万人を優に超え、消費額は8兆円を超え、どちらも過去最高の2023年(2,507万人)を大幅に上回った。

 

また、引き続き、2024年10-12月期の訪日外国人消費額の増加率(+90.5%)は、外客数の増加(2019年同期比+33.8%)と比べてはるかに大きく、1人当たりの消費額(23万7,002円)はコロナ禍前の1.3倍に増加した。特に欧米からの訪日客では、消費額が2倍近くに増えた国も多く見られた。なお、消費額の内訳は、前期同様、モノ消費(「買い物代」)が3割、サービス消費が7割を占めた。

 

2024年10-12月期の特徴としては、訪日外客数の首位が再び韓国となったことだ。コロナ禍前に圧倒的な存在感を示していた訪日中国人観光客の回復基調も強まっているものの、韓国人観光客の増加基調が上回り、訪日客全体の約4分の1を占めるようになっている。

 

ただし、韓国人観光客は宿泊日数が平均4日と短いため、消費額としては宿泊日数が長く購買意欲が強いと見られる中国人の存在感が勝っている。なお、中国人観光客ではモノ消費が4割を占めて、全体平均を上回る。

 

2025年もインバウンドの勢いが増すと見られる中で、オーバーツーリズムへの対応は喫緊の課題だ。観光業に限らず、日本の労働市場全体で人手不足が深刻化し、中長期的にも重大な課題となっている。この状況下で、デジタル活用による生産性向上に一層取り組むことは不可欠であるが、同時に、本来のサービスの質やコストに見合う価格設定への見直しを進め、システムや人材への十分な投資を可能にするための原資を確保することが重要である。

 

インバウンドにおいては、地元民と訪日客に対する二重価格が問題視されることもある。不当な高額料金等は論外だが、多言語対応や宗教的配慮、訪日客向けの専属ガイドなど、実際に付加的な対応が求められるサービスについては、正当な理由に基づく価格転嫁が可能である。

 

また、日本文化の美徳として、「おもてなし」を価格に含めず、それを当然のものとして提供する傾向がある。これは消費者にとって高品質なサービスとして評価される一方で、近年は原材料費や光熱費、人件費の高騰が利益を圧迫している。こうした状況を踏まえ、「おもてなし」を前提とした価格設定について、他国のインバウンド市場の動向も参考にしながら、グローバル基準で再検討する時期に来ていると言える。

客単価引き上げに求められること

このほか、訪日客の単価を引き上げる施策としては、サービス消費の拡大に大きな余地がある。前述のように、訪日外国人の消費に占める娯楽などのサービス費用(現地ツアー、テーマパーク、舞台・音楽鑑賞、スポーツ観戦、美術館、温泉・エステ・マッサージ、医療費など)の割合は、インバウンド大国である米国と比べて半分以下にとどまっている。

 

以前から、特にナイトタイムエコノミーに関連するサービスや、富裕層向けの質の高いサービスの不足が指摘されており、新たなサービス需要の開拓は、日本の成熟した消費市場のさらなる発展にも寄与するだろう。

 

インバウンド市場が10兆円規模に達すれば、日本経済や労働市場への期待も一層高まる。一方で、現在の供給体制では、観光地によってはすでに負担が限界に達しており、持続可能な観光を実現するためには、単なる供給拡大ではなく、単価を引き上げることで成長を促す方向性が求められる。

 

そのためには、適切な価格転嫁に加え、日本ならではの付加価値の向上も不可欠だ。例えば、文化芸術や地域文化の伝承を核としたサービスの提供なども競争力の強化につながるだろう。

 

訪日客向けに付加価値の高いサービスを充実させることは、日本人の消費拡大にもつながり、国内市場の活性化にも寄与する。インバウンドと国内消費の相乗効果を生み出しながら、観光・サービス産業全体が持続可能な発展を目指すことが求められる。

 

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※本記事記載のデータは各種の情報源からニッセイ基礎研究所が入手・加工したものであり、その正確性と安全性を保証するものではありません。また、本記事は情報提供が目的であり、記載の意見や予測は、いかなる契約の締結や解約を勧誘するものではありません。
※本記事は、ニッセイ基礎研究所が2025年2月6日に公開したレポートを転載したものです。

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