どうなるダブル改定、インフレ下で難しい対応-薬価削減を「調整弁」に使う方法は限界?少子化対策の影響も

どうなるダブル改定、インフレ下で難しい対応-薬価削減を「調整弁」に使う方法は限界?少子化対策の影響も
(写真はイメージです/PIXTA)

2024年度は介護サービスの公定価格である診療報酬・介護報酬の改定年です。今回は6年ぶりの同時改定ということもあり、診療・介護双方の重なる領域が見直しの焦点になる可能性が高いでしょう。本稿ではニッセイ基礎研究所の三原岳氏が、ダブル改定に影響を及ぼす「変数」を抽出するとともに「診療報酬・介護報酬」の今後の展望について解説します。

1―はじめに~どうなるダブル改定、インフレ下で難しい対応~

2024年度は医療・介護サービスの公定価格である診療報酬・介護報酬の改定年であり、予算編成過程では改定率を巡り、政府・与党や関係団体を交えた攻防が予想される。

 

さらに、今回の改定は6年ぶりの同時改定となるため、両者が重なる領域が見直しの焦点となりそうだ。

 

一方、インフレ局面での診療報酬改定は久しぶり(介護報酬改定では初めて)であり、現時点で改定結果を予想するのは極めて困難である。さらに、政府が重視する少子化対策の財源確保問題も絡む可能性があり、ダブル改定を巡る「連立方程式」は複雑になりそうだ。

 

そこで、本稿では政策文書や審議会の資料などで使われている文言を詳しく見ることで、人材不足や物価上昇への対応、少子化対策の余波などダブル改定に影響を及ぼす「変数」を抽出するとともに、今後の展望を試みる。

2―診療報酬本体の改定率を巡る政治力学

医療機関向けの診療報酬本体は2年に1回の頻度で見直されており、日本医師会(以下、日医)の動向を含めて、政府・与党の間で激しい攻防が毎回のように交わされる。

 

しかも、診療報酬本体は2年任期の日医会長選の直前に見直されるため、本体改定率や改定内容は日医会長の「業績」を示す一つの「成績表」になっている面がある。

 

例えば、前回の2022年度改定では「0.42%」が一つの目安と見なされていた1。これは4期8年の長期政権を誇った横倉義武元会長の時代の平均であり、横倉氏を破った中川俊男前会長にとって、この水準を本体改定率が上回るかどうかが注目されたのである。

 

結局、本体改定率はプラス0.43%となったため、目安とされた水準を上回ったものの、日医が反対していたリフィル処方箋(一定条件の下、繰り返し使える処方箋)の導入を受け入れたことで、日医内部の批判が高まり、中川氏は1期で会長を退いた。

 

この経緯を見ても、本体改定率が如何に政治的に決まっているか、あるいは政治的なシンボルとして重視されているか、読み取れる。

 

しかも、今回の診療報酬改定は3年サイクルで見直されている介護報酬の見直しと重なっており、6年ぶりの同時改定となる2。このため、関係者の関心は高く、既に綱引きも始まっている。以下、経済財政政策の方向性を示す「骨太方針」(経済財政運営と改革の基本方針)の文言を確認する。

 


1 2022年度診療報酬改定については、2022年5月16日拙稿「2022年度診療報酬改定を読み解く」(上下2回、リンク先は第1回)、同年1月17日拙稿「2022年度の社会保障予算を分析する」を参照。本体改定率の「0.42%」が目安とされた経緯やリフィル導入の影響については、2022年5月23日『日本経済新聞』電子版配信記事、同月22日『毎日新聞』、2021年12月23日『毎日新聞』などを参照。

2 なお、ここでは詳しく触れないが、3年に一度の障害者総合支援法に基づく福祉サービスの報酬改定も控えており、「トリプル改定」と呼ばれる時もある。

次ページ3―骨太方針の文言

※本記事記載のデータは各種の情報源からニッセイ基礎研究所が入手・加工したものであり、その正確性と安全性を保証するものではありません。また、本記事は情報提供が目的であり、記載の意見や予測は、いかなる契約の締結や解約を勧誘するものではありません。
※本記事は、ニッセイ基礎研究所が2023年10月24日に公開したレポートを転載したものです。

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