「急性期病床の適正化策」改定の歴史
例えば、2014年度診療報酬改定では、(1)軽度な救急患者を受け入れる急性期(サブアキュート)、(2)状態が安定した後の患者を受け入れる回復期、(3)在宅復帰支援――を担う「地域包括ケア病棟」が創設され、急性期病床の転換後の受け皿として期待された。その後、自院からの転棟が相次いでいるとして、2022年度診療報酬改定では、機能を明らかにするため、加算要件が厳格化になった17。
さらに、2017年3月までに都道府県が策定した「地域医療構想」18でも、急性期病床の圧縮も意識された。具体的には、病院再編・統合を含めて、膨らんだ急性期病床の削減とともに、回復期病床の拡充や在宅医療の充実、それぞれの連携強化などが想定されている。
一方、新型コロナのオミクロン株への対応では、複数の疾患を持つ高齢者が一般病棟に入院した後、要介護度や認知機能が悪化することが問題視された。
さらに、今後は複数の慢性疾患を抱えつつ、自宅で療養する高齢者が増えるため、リハビリテーションの提供や在宅復帰支援を担える中小病院の役割も重要になると思われる。
以上のような議論を踏まえると、主に200床未満の中小病院の役割を明確にする観点に立ち、地域包括ケア病棟の一層の機能明確化など、2024年度ダブル改定(及び今後の医療提供体制改革)では、高齢者の急性期医療が注目される可能性が高い。
実際、日医の松本会長は「急激に進めてほしくはない立場だが、恐らく7対1を減らすムードにあることは間違いない」と述べている19。
17 2022年度診療報酬改定では、地域包括ケア病棟に関して、自宅などから高齢者を受け入れた場合の加算が大幅に拡充される一方、自院から転棟したケースでの加算は大幅に減じられた。詳細については、2022年5月27日拙稿「2022年度診療報酬改定を読み解く(下)」を参照。
18 地域医療構想は2017年3月までに各都道府県が策定した。人口的にボリュームが大きい「団塊世代」が75歳以上になる2025年の医療需要を病床数で推計。その際には医療機関の機能について、救急患者を受け入れる「高度急性期」「急性期」、リハビリテーションなどを提供する「回復期」、長期療養の場である「慢性期」に区分し、それぞれの病床区分について、人口20~30万人単位で設定される2次医療圏(構想区域)ごとに病床数を将来推計した。さらに、自らが担っている病床機能を報告させる「病床機能報告」で明らかになった現状と対比させることで、需給ギャップを明らかにし、医療機関の経営者などを交えた「地域医療構想調整会議」での議論を通じた合意形成と自主的な対応が想定されている。地域医療構想の概要や論点、経緯については2017年11~12月の「地域医療構想を3つのキーワードで読み解く(1)」(全4回、リンク先は第1回)、2019年5~6月の拙稿「策定から2年が過ぎた地域医療構想の現状を考える」(全2回、リンク先は第1回)、2019年10月31日拙稿「公立病院の具体名公表で医療提供体制改革は進むのか」を参照。併せて、三原岳(2020)『地域医療は再生するか』医薬経済社も参照。
19 2023年10月14日に開催された第64回全日本病院学会における特別講演。同日『m3.com』配信記事を参照。
6―おわりに
異次元の改定――。2024年度ダブル改定に関して、このように日医の松本会長は評している20。筆者も「異次元」と呼べるかどうか別にして、今回のダブル改定は過去と大きく異なると認識している。
特に、薬価削減を便利に「調整弁」として使う方法が通用しなくなっている点は大きな変化である。さらに、少子化対策の財源確保問題など不透明な要素も多い。
一方、医療・介護の現場を見ると、介護人材や医薬品の不足は顕著であり、何らかの対応が必要になるのは間違いない。今後、物価・賃金上昇や人材確保への対応、薬剤の安定供給を図りつつ、歳出抑制・財源確保に努めるという難しい「連立方程式」をどう解くのか、政権は難しい舵取りを強いられそうだ。
20 2023年9月29日の記者会見における発言。日医ウエブサイトを参照。
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