「コロナ特例」廃止による病院への影響とは
5|新型コロナウイルスの特例が縮減・廃止されている影響
第4に、新型コロナウイルスの特例が縮減・廃止される影響である。国内で感染が広がった2020年以降、感染者を受け入れた医療機関への加算が相次いで創設されるなど、報酬や財源を用いたテコ入れが図られてきた。
さらに、「診療報酬本体のマイナス改定はあり得ない。絶対にプラス改定にしなければ全国の医療が壊れてしまう」12という声が出るなど、与党や業界団体が改定率引き上げを主張する論拠の一つにもなっていたが、コロナ特例は少しずつ縮減・廃止されており、平時モードに移行しつつある点で過去2~3年の改定と様相が異なる。
その半面、コロナ特例が医療機関の経営指標に影響しており、関係者の間で論点となっている。具体的には、財務省が2023年9月に開かれた財政制度等審議会(財務相の諮問機関)の席上13、▽診療所の収益率は構造的に病院よりも高い、▽コロナ禍の前に赤字だった病院の経常利益率は急回復している、▽中小企業の収益が変動している一方、介護事業所の収益は安定した伸びを示している、――とする資料を提出し、プラス改定に向けた議論を牽制した。
これに対し、日医は2日後に開いた記者会見で、「コロナ補助金が無い場合、病院はとても苦しい状況にある」と反論14。
日医など医療関係団体で構成する「国民医療推進協議会」による2023年10月の総会でも、「医療機関の経営状況は良くなっているように見えるが、オミクロン株の流行によるコロナ患者の急増など、コロナ対応が主な要因。その分、安全対策の増加、追加的人員の確保など感染拡大に対応できる体制を築くためのコストも上昇している」「コロナ禍による医療費減少のダメージがそのまま残っている」との声が出たという15。
武見厚生労働相も同月の経済財政諮問会議で、「コロナ特例の縮減の影響」を見極める必要性に言及16しており、この点も改定率決定の「変数」となりそうだ。
12 2021年12月15日の記者会見における中川俊男会長(当時)の発言。同日『m3.com』配信記事を参照。
13 2023年9月27日、財政制度等審議会財政制度分科会資料、参考資料を参照。
14 2023年9月29日の記者会見における日医の猪口雄二副会長の発言。日医ウエブサイトを参照。
15 2023年10月10日の会合における日医の茂松茂人副会長の発言。同月11日『ミクスOnline』配信記事を参照。
16 2023年10月10日、経済財政諮問会議における発言。内閣府ウエブサイトにおける記者会見要旨を参照。
5―提供体制改革では、高齢者の急性期などが論点?
最後に、ダブル改定に向けた論点として、医療・介護提供体制改革の行方を考察したい。
診療報酬の細かいテーマは中央社会保険医療協議会(厚生労働相の諮問機関、以下は中医協)で、介護報酬の細目は社会保障審議会(厚生労働相の諮問機関)介護給付費分科会で検討が進んでおり、全ての論点を網羅することは紙幅上、難しい。
ただ、今回は6年ぶりの同時改定であり、医療と介護が重なる領域が主要な論点になるのは間違いない。実際、本格的な議論に先立つ形で、中医協と給付費分科会の意見交換会が開催されており、[図表3]の通り、医療・介護サービスの連携強化とか、人生の最終段階における医療・介護、認知症ケアなど、9つのテーマが話し合われた。
これらは全て重要な論点であり、それぞれに課題が山積しているが、今回は高齢者の救急医療に着目したい。
この問題の淵源は2006年度診療報酬改定に遡る。この時、厚生労働省は急性期に対応する「7対1基準」(患者7人に対して看護師1人を配置する基準、現在の名称は「急性期一般入院料1」)の診療報酬単価を高く設定した。
しかし、当初の予想を超える医療機関が7対1基準を取得し、医療費を押し上げる結果となり、近年の制度改正・報酬改定では急性期病床の適正化策が焦点になっている。