
退職後の静かな生活に訪れた「想定外」
ようやく自由な生活が始まる――そんな期待を抱いていた高野浩之さん(仮名・65歳)と妻の美智子さん(仮名・65歳)。夫婦共働きで協力し合い、3人の子どもを育て上げたふたり。60歳で定年を迎えるも、年金を受け取れるようになるまではと65歳まで勤め上げ、40年以上にも渡る会社員人生を終えました。
夫婦の年金は浩之さんが月19万円、美智子さんが15万円、合わせて月34万円。手取りにすると28万円強です。退職金含めた貯金は5,000万円ほどあり、老後に対してお金の不安はありません。ローンを払い終えた都内の自宅で、静かに穏やかな日々を過ごす予定でした。しかし、数字だけを見れば安心して暮らしていける条件は揃っていたものの、平穏な日々は訪れることはありませんでした。
次女が10歳と7歳の息子を連れて実家に戻ってきたのは、高野さん夫婦が65歳で仕事を引退する少し前のこと。性格の不一致に悩み、子どもたちを連れて家を飛び出したという次女を、夫婦は迷いながらも「困っている家族を見捨てるわけにはいかない」と受け入れました。しばらくたち、次女の離婚は成立。正式に親子3世代の同居生活をスタートさせました。最初は「にぎやかになる」「孫と一緒に暮らせるなんて」と前向きに捉えていましたが、その思いはすぐになくなります。
次女は正社員として自立したいと就職活動を始めましたが、思うような職を得ることができません。やがて「子どもが小さいうちは正社員になるのは難しい」と判断し、昼間はパートで働くように。育児の負担は高野夫妻にのしかかってきました。
孫の学校の送り迎え、習い事、病院への付き添い、食事の用意に洗濯――まるで二度目の子育て。さらに生活費もかさんでいきます。当初は次女から3人分の生活費をもらおうと思っていましたが、どうやら養育費はきちんと払われていないよう。そのような状態で生活費をもらっていては、次女家族の自立が遅れてしまう。そこでとりあえずは高野夫妻が全面的に面倒をみることになりました。支出は夫婦ふたりの生活に比べて10万~15万円ほど増加。年金だけではまかないきれず、貯金を取り崩す日々が始まりました。