どうなるダブル改定、インフレ下で難しい対応-薬価削減を「調整弁」に使う方法は限界?少子化対策の影響も

どうなるダブル改定、インフレ下で難しい対応-薬価削減を「調整弁」に使う方法は限界?少子化対策の影響も
(写真はイメージです/PIXTA)

2024年度は介護サービスの公定価格である診療報酬・介護報酬の改定年です。今回は6年ぶりの同時改定ということもあり、診療・介護双方の重なる領域が見直しの焦点になる可能性が高いでしょう。本稿ではニッセイ基礎研究所の三原岳氏が、ダブル改定に影響を及ぼす「変数」を抽出するとともに「診療報酬・介護報酬」の今後の展望について解説します。

3―骨太方針の文言

毎年6~7月頃に閣議決定される骨太方針は予算編成の「前哨戦」の側面を持っており、原案と閣議決定版で使われている文言を比べることで、「何が論点なのか」を一定程度、予想できる。

 

そこで、今年6月7日の経済財政諮問会議に提出された原案を見ると、[図表1]の上側の通り、物価高騰、賃金上昇、医療・介護事業所の経営状況、人材確保の必要性が列挙されており、これらはプラス改定に繋がる文言と理解できる。

 

出典:内閣府資料を基に作成 注 :河川などは筆者による追加。
[図表1]ダブル改定に向けた骨太方針の表記変化 出典:内閣府資料を基に作成
注 :河川などは筆者による追加。

 

具体的には、医療機関や介護事業所の賃金や物件費は市場実勢に左右される一方、収入は診療報酬、介護報酬で固定されており、他の産業のように価格に転嫁できないため、インフレ局面では一種の逆ザヤ状態が生まれる。

 

こうした状況で、報酬を引き上げなければ、実質的にマイナス改定になるため、これらの文言はプラス改定に繋がる要素が言及されていると言える。

 

その半面、診療報酬や介護報酬を引き上げると、患者・利用者負担や保険料も上昇するため、「患者・利用者負担・保険料負担の抑制の必要性」という文言はマイナス改定の要素と読める。つまり、骨太方針の原案ではプラス、マイナスの両面の「必要性」が同時に指摘されていたことになる。

 

その後、同月16日に閣議決定された文書では、[図表1]の下側の通り、患者・利用者負担・保険料負担の部分が「抑制の必要性」ではなく、「影響」という言葉に置き変わった。さらに、「患者・利用者が必要なサービスを受けられる」という文言も加えられている。

 

これらの変化を通じて、改定率を巡る前哨戦が交わされ、マイナス改定の要素が取り除かれたようにも読み取れる。実際、日医の松本吉郎会長が「(筆者注:与党の)先生方の積極的な働きかけが実を結んだものと理解している」と述べる一幕もあった3

 

しかし、これだけで「プラス改定が決まった」と考えるのも早計である。もう少し骨太方針を読み込むと、[図表1]の下側で示した通り、2024年度予算編成に向けて、「第5章2における『令和6年度予算編成に向けた考え方』」という文言が加えられていることに気付く。

 

では、「第5章2における『令和6年度予算編成に向けた考え方』」では一体、どんなことが書かれているのか。骨太方針の末尾には「令和6年度予算において、本方針、骨太方針2022及び骨太方針2021に基づき、経済・財政一体改革を着実に推進する」と書かれている。

 

要するに、2024年度予算編成に際しては、過去2年間の骨太方針を基に、経済・財政一体改革を着実に推進する旨が明記されており、これはマイナス改定に繋がる文言である。

 

具体的には、最近の予算編成4では、社会保障の自然増を毎年、5,000億円程度に抑制する方針の下、歳出の抑制が図られており、これを継続すると指摘しているのである。

 

以上を踏まえると、骨太方針に盛り込まれた文言はプラス改定、マイナス改定のどちらにもなり得る点で、両論併記の文章と言える。言い換えると、前哨戦では決着が付かず、勝負は年末の予算編成に持ち越された形だ。

 

一方、今回の改定は従来と異なる点が多いと考えられる。以下、(1)物価上昇の影響、(2)薬価削減による財源確保が困難な点、(3)少子化対策の財源確保論議が影響する可能性、(4)新型コロナウイルスの特例が縮減・廃止されている影響――の4つを取り上げる。

 


3 2023年7月10日『週刊社会保障』No.3226を参照。

4 例えば、2023年度予算編成では、薬価改定で約700億円、後期高齢者医療制度の2割負担の部分的導入で約400億円などの歳出改革策を積み上げ、5,600億円と見られた自然増を4,100億円程度に抑えた(年金スライド分の影響を除く)。詳細については、2023年2月2日拙稿「2023年度の社会保障予算を分析する」。

次ページ4―過去の改定と違う点

※本記事記載のデータは各種の情報源からニッセイ基礎研究所が入手・加工したものであり、その正確性と安全性を保証するものではありません。また、本記事は情報提供が目的であり、記載の意見や予測は、いかなる契約の締結や解約を勧誘するものではありません。
※本記事は、ニッセイ基礎研究所が2023年10月24日に公開したレポートを転載したものです。

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