どうなるダブル改定、インフレ下で難しい対応-薬価削減を「調整弁」に使う方法は限界?少子化対策の影響も

どうなるダブル改定、インフレ下で難しい対応-薬価削減を「調整弁」に使う方法は限界?少子化対策の影響も
(写真はイメージです/PIXTA)

2024年度は介護サービスの公定価格である診療報酬・介護報酬の改定年です。今回は6年ぶりの同時改定ということもあり、診療・介護双方の重なる領域が見直しの焦点になる可能性が高いでしょう。本稿ではニッセイ基礎研究所の三原岳氏が、ダブル改定に影響を及ぼす「変数」を抽出するとともに「診療報酬・介護報酬」の今後の展望について解説します。

4―過去の改定と違う点

1|最近、20年間の改定は…

ここで、約20年間の診療報酬改定を簡単に振り返る。[図表2]の通り、薬価を市場実勢に合わせて引き下げる代わりに、その一部を医療機関向けの診療報酬本体に回すパターンが長く続いていた。

 

さらに、2021年度以降、薬価については毎年改定することになり、薬価削減は社会保障費抑制の手段となっていた。例えば、2023年度予算編成では、市場実勢に合わせる形で、薬価を抑制することで、給付費ベースで約3,100億円、国費ベースで約700億円が削減された。誤解を恐れずに言うと、診療報酬本体の改定率とか、予算編成の調整に際して、薬価は便利な「調整弁」の機能を果たしていたと言える。

 

さらに、デフレの長期化に伴って、医療機関や介護事業所にとって逆ザヤ状態が起きなかった点も改定率を低く抑えられる要因になっていた。

 

例えば、最近の介護報酬改定率(消費増税対応分を除く)を振り返ると、プラス1.2%(2012年度)、マイナス2.27%(2015年度)、プラス0.54%(2018年度)、プラス0.70%(2021年度)という推移を辿った。

 

出典:厚生労働省、財務省資料を基に作成 注1:中間改訂は除く。 注2:2014年度は消費増税対応を除く数字。 注3:2020年度は働き方改革特例を含む数字。
[図表2]近年の診療報酬・薬価改定率の推移 出典:厚生労働省、財務省資料を基に作成
注1:中間改訂は除く。
注2:2014年度は消費増税対応を除く数字。
注3:2020年度は働き方改革特例を含む数字。

 

2|物価上昇の影響

しかし、従来の改定パターンは通用しないと思われる。その理由の第1として、物価上昇の影響を指摘できる。もう少し細かく見ると、今のように2年に1回、診療報酬が定例的に改定されるようになったのは1990年代後半であり、既にデフレの傾向が浮き彫りになっていた時期に当たる。このため、診療報酬改定では久しぶりのインフレ局面での改定となる。

 

さらに介護報酬に関しても、介護保険制度がスタートした時期(2000年度)はデフレの時期と重なっており、未知の領域での改定と言える。

 

特に人手不足が顕著な介護業界では、インフレの影響が深刻であり、東京都は2023年10月の「介護報酬改定等に関する緊急提言」で、「現下の物価高騰の影響も踏まえ、介護事業所・施設が安定的・継続的に事業運営できるよう、介護報酬に適切に反映されたい」と訴えた。武見敬三厚生労働相も介護職の給与を月6,000円程度、引き上げる考えを示した5

 

なお、物価上昇への配慮としては、報酬改定だけでなく、補正予算による税財源の支援が浮上する可能性がある。これに絡む動きとして、日医など診療団体は2023年10月、「食材料費・光熱費等の物価高騰に対する財政支援に関する要望」を武見厚生労働相に提出し、臨時国会に提出される2023年度補正予算で、食材料費・光熱費などに関する財政支援が必要と訴えた。

 

このため、物価上昇が改定率に及ぼす影響を考える上では、経済対策や補正予算の動向も見極める必要がありそうだ。

 


5 2023年10月19日『日本経済新聞』電子版を参照。川崎市の介護施設視察後の発言。

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※本記事記載のデータは各種の情報源からニッセイ基礎研究所が入手・加工したものであり、その正確性と安全性を保証するものではありません。また、本記事は情報提供が目的であり、記載の意見や予測は、いかなる契約の締結や解約を勧誘するものではありません。
※本記事は、ニッセイ基礎研究所が2023年10月24日に公開したレポートを転載したものです。

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