少子化対策の主な財源として社会保険料は是か非か…社会保障の「教科書」的な説明から考える

少子化対策の主な財源として社会保険料は是か非か…社会保障の「教科書」的な説明から考える
(写真はイメージです/PIXTA)

岸田文雄政権が目指す「次元の異なる少子化対策」に関連し、その財源として社会保険料を充当する考え方がに有力になっていますが、ニッセイ基礎研究所の三原岳氏は違和感を覚えるといいます。本稿では社会保障の「教科書」的な説明に立ち返り、少子化対策の財源問題を検討していきます。

6―考えられる選択肢

1|歳出削減の可能性は?

では、「次元の異なる少子化対策」に取り組む際、どんな選択肢が考えられるでしょうか。上記で述べた通り、少子化対策の主たる財源を社会保険料に求める考え方は相当、無理があると言わざるを得ません。少なくとも「取りやすいところから取る」という考え方は安易であり、結果的に社会保障制度や社会保険料に対する国民の信認を損ないかねないリスクさえ考えられます。

 

そこで、代替策として、主たる財源を租税財源に求める方法が考えられますが、既述した通り、国民のアレルギーが強いため、この選択肢だけに頼るのは難しいと思われます。

 

次に、歳出削減の選択肢も想定できます。例えば、所得の高い高齢者の医療・介護に関する自己負担を引き上げる選択肢*15などが考えられますし、筆者も部分的に支持しますが、兆円単位、あるいは数千億円単位の歳出を削減するのは至難の業であり、この選択肢だけに頼るのは困難と思われます。

 

その結果、結局は社会保険料の確保だけでなく、租税財源の確保と歳出削減を組み合わせることが予想されます。これは2010年代半ばに決まった社会保障・税一体改革と同じ方向性であり、負担と給付の在り方を一体的に模索して行く必要があります。

 

15 高齢者の患者負担増を巡る経緯や最近の議論については、2022年1月12日「10月に予定されている高齢者の患者負担増を考える」2020年12月25日拙稿「後期高齢者の医療費負担はどう変わるのか」を参照。

2|フランスの制度が参考に?

社会保険料の「対価性」を解消するする方策として、フランスの一般社会拠出金(CSG)が考えられます。フランスは社会保険料のうち、本人負担の部分を事実上、社会保障目的で租税化し、社会保険方式の網から漏れる非正規雇用者に対する社会保障給付などに充当しています*16。この選択肢であれば、社会保険料の対価性をクリアする形で、少子化対策などの社会保障給付に回すことが理論上、可能になります。

 

ただ、今よりも負担を増やすのであれば、結局は増税論議と変わらなくなります。考えてみれば当然なのですが、社会保険料だろうが、租税財源だろうが、国民の懐が痛む点は同じです。その結果、この選択肢を採用したとしても、「負担と給付の両面を見据えた議論が必要」という結論に至ります。

 

*16:CSGについては、尾玉剛志(2018)『医療保険改革の日仏比較』明石書店、柴田洋二郎(2019)「フランス医療保険の財源改革にみる医療保障と公費」『健保連海外医療保障』No.121、同(2017)「フランスの医療保険財源の租税化」『JRIレビュー』Vol.9 No.48、小西杏奈(2013)「一般社会税(CSG)の導入過程の考察」井手英策編著『危機と再建の比較財政史』ミネルヴァ書房などを参照。

次ページ7―おわりに

※本記事記載のデータは各種の情報源からニッセイ基礎研究所が入手・加工したものであり、その正確性と安全性を保証するものではありません。また、本記事は情報提供が目的であり、記載の意見や予測は、いかなる契約の締結や解約を勧誘するものではありません。
※本記事は、ニッセイ基礎研究所が2023年5月24日に公開したレポートを転載したものです。

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