年をとったら「生活の質」を大事にする
■健康を測る尺度は検査数値ではなく毎日を気分よく過ごせるかどうか
年をとったら生活の質をなにより大事にしたほうがいい、と私は考えています。健康を測る尺度は検査数値ではなく、毎日を気分よく過ごせるかどうか、活動レベルを保てているかどうかです。
血圧と同じく、血糖値も高くなると、薬で正常値まで下げる引き算医療が始まります。血糖値は年齢とともにゆるやかに高くなるのが自然です。高齢者の場合、必要以上に薬で血糖値を下げるのは危険です。
インスリンや薬で血糖値を下げると、それが正常値であっても、低血糖が起こる時間帯が明け方などに出現します。これにより失禁やふらつき、ボケたような症状が現れるのです。
浴風会病院の糖尿病専門医だった故・板垣晃之先生も、こうした低血糖の症状を起こす患者さんを多数経験していることから、血糖のコントロールはゆるめに行うという方針をとっていました。
糖尿病の薬を減らすと、どんよりした表情の人が「頭がスッキリした」などと言ってみるみる元気を取り戻します。
■血糖値は高いほうがアルツハイマー病になりにくい
糖尿病はアルツハイマー病の発症リスクのひとつとされています。そこで動脈硬化予防にくわえ、認知症予防のためにも血糖値を下げるというのが医学の常識になっています。
ところが、この医学の常識と相容れないデータが浴風会病院の解剖症例で確認されています。すなわち糖尿病がある人はない人と比べて、解剖所見ではアルツハイマー病の発病率が3分の1にとどまっていたのです。
この結果を受けて浴風会病院では、「血糖値は高いほうがアルツハイマー病になりにくい」と考え、血糖値はむしろ高めにコントロールしていました。
一方、従来の常識を裏づけるデータもあります。福岡県久山町で実施された久山町研究では、糖尿病の人はそうでない人の2.2倍アルツハイマー病になりやすいという結果が報告されています。
この久山町研究と浴風会病院で、なぜ異なった結果が出たのでしょうか。
久山町は「町民を健康にしよう」というスローガンのもと、町を挙げて糖尿病の治療に取り組んでおり、調査対象となった糖尿病の高齢者は全例糖尿病の治療を受けていました。
このことから私は次のような仮説を立てました。糖尿病の治療によって一日何時間か低血糖になる時間帯があり、それが脳にダメージを与えてアルツハイマー病の発病率を高めているのではないか? 糖尿病だからアルツハイマー病になったのではなく、糖尿病の治療薬を使うほどアルツハイマー病になりやすいのではないか?
これが正しいどうかはわかりませんが、医学の常識は疑ってみることが大切だと考えています。少なくとも私は浴風会病院のデータを信じています。
私自身も高いときは血糖値が660mg/㎗もありましたが、インスリンは使わず、原則的に歩くこととスクワットで血糖値が300を切ることを目標にコントロールしています。体調もよく、眼底や腎機能に異常はきていません。
和田 秀樹
ルネクリニック東京院 院長
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