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逃げ帰ってきた母と、戸惑う長女…その「予想外の理由」
「……もう、あそこには戻らないから」
半泣きでそう訴えたのは、今年80歳になる佐藤喜代さん(仮名)。神奈川県内のマンションで長年一人暮らしをしてきましたが、娘の圭子さん(仮名/52歳)の勧めもあり、昨年12月にサービス付き高齢者向け住宅、いわゆる「サ高住」へ入居しました。
圭子さんは都内で夫と高校生の娘と暮らす会社員。介護と仕事の両立に限界を感じていたこともあり、施設入居は家族にとっても安心材料になるはずでした。入居した施設は月額約18万円。家賃、食費、サービス費込みで、月額の年金16万円と貯蓄を合わせれば問題なく支払える金額です。
「最初はね、ここなら安心だって思ったの。スタッフの人も親切だったし、お部屋もきれい。でも……日が経つにつれて、だんだん息苦しくなってきたのよ」母の口から出てきたのは、介護やサービスの質ではなく、思わぬ“心の声”。
「なんていうのかしら、生きてる意味が見えなくなってきたのよ」趣味の園芸も、気ままな買い物もできない。「規則正しい生活」が逆にストレスになったようです。入居から2ヵ月が経ったある朝、タクシーに飛び乗り圭子さんのもとへ帰ってきました。
「高齢者に優しい」は本当か?サ高住に潜む盲点
高齢者の住まい選びとして、サ高住は近年とくに注目を集めています。2025年現在、全国には約28万戸ものサ高住が整備され※、バリアフリー設計や24時間の見守り体制、生活支援サービスなどが魅力とされています。
しかし、サ高住は「介護施設」ではありません。入居者の多くは「自立~軽度の要支援」段階の人たち。スタッフによる見守りや声かけはあるものの、日々の行動はある程度制限されます。毎日の食事時間、掃除や洗濯のルール、施設内での人間関係――これらが、従来の自由な一人暮らしとのギャップを生み出す原因にもなるのです。
「私、朝食が早いのがどうしてもダメで……。7時半には食堂に行ってないと、食べ損ねちゃうのよ」喜代さんは、そういった細かい決まりごとが重なることで、日々の楽しみが薄れていったといいます。
「あそこを飛び出してしまった日も、朝食を食べられなかったの」
