高齢者の定期健診は本当に必要か
■定期健診をするなら、その後のことも考えてから
毎年、定期健診を受けている方は多いでしょう。
勤めている間は、職場で必ず受けさせられます。異常が出ると再検査しろと通知がきて、放っておくと注意されるので、仕方なく病院へ行くと異常数値を下げる薬が出ます。そうして企業は社員の健康を守ったことになります。薬さえ飲んでいれば、まわりが安心します。自分ではなく、まわりを安心させるための薬のようです。
基本健診のほかにも胃がん検診、大腸がん検診などの健診も受ける人もいるでしょう。乳がん検診、子宮がん検診もあります。
がん検診はがんを早期発見、早期治療するためのものです。ところが、がんらしきものがあり再検査になると、慌てふためく人は多いのではないでしょうか。「本当にがんだったらどうしようか」と悩み落ち込みます。
がん検診はがんを見つけるためのものなのに、もし見つかったら自分はどの病院へ行って、こういう治療をしてもらいたいと思い描いている人はまずいません。たいていの人は、自分ががんになることはないと思っているのです。
日本人の死因のトップはがんです。がんになったときに自分はどう対処していくか、少しは考えておくべきでしょう。そのためのがん検診だと考えてください。
70代になって会社組織からも離れ、健診は強制ではなくなりますが、自治体の健診やがんドックを受ける人も多いでしょう。70代を超えれば、あちこちの身体の故障やがんも見つかるかもしれません。そのときの対応も心づもりをして、検診に臨んでほしいです。
がんになったらどうするかですが、70代以上のがんに関しては、私は手術することのリスクは大きいと考えています。
長生きしたいから、手術、治療をするのですが、それによって身体のダメージは大きくなります。みなさんの知り合いにも手術したものの、しばらくして亡くなったという方はいませんか。
手術で臓器を切り取るというのは、簡単なダメージではすみません。免疫も落ちます。肺炎などを起こしやすくもなります。動けない期間も長いので、筋肉は落ち、ヨボヨボになり要介護状態で家に戻ってくることが多いのです。
私は、高齢者のがんに対しては、がんを〝飼いならしながら〞生活していくという方法もあると思っています。
私が勤務していた高齢者専門病院では、毎年、100例ほどの亡くなられた方の解剖をさせていただきました。
そこでわかったのは、85歳を過ぎたら体内のどこかにがんがあるということです。いつからできたがんかはわかりませんが、自分もまわりもがんがあるとは知らずに、がん細胞とともに生きている高齢者は多いのです。というのは、彼らのうち3分の2の人の死因はがんでなかったからです。転移がたくさんあった人もいました。
将棋が好きで、公民館で子どもに将棋を教えていた男性がいました。
70代後半で、食欲も旺盛で元気です。ところが帯状疱疹が治らず検査したところ肺がんがみつかりました。高齢ですから治療はしなくていいと本人は決めました。そのままいつも通りに普通に暮らしていましたが、2年経ったくらいで咳が出て、食欲がなくなり衰弱して亡くなりました。
最後に入院するまで家の中で自立していたそうです。この方も手術などしたら、その時点で要介護者になっていたかもしれませんが、がんが見つかってから2年間はまったく普通に、好きなことをして生活していました。
がんの治療については、その人それぞれの考え方があると思います。それでも最後まで自分らしく生きるにはどうしたらいいか、きちんと自分の考えを持ち、それを家族にも医者にも伝えられるようにしておきたいものです。
転移のあるがんについては、おそらく抗がん剤治療を受けることでしょうが、私の診てきた限り、そちらのほうがさらに体力を落とすようです。
70歳を過ぎても律儀に自治体のがん検診を受ける人はいますが、高齢になったらがん検診も受けなくてもいいと私は思います。
若いときなら早期発見は必要でしょう。がんの進行も速いことも多く、体力があれば手術からの回復も早いからです。本人にも仕事に戻りたいという強い気持ちがあるでしょう。
でも、もう高齢になったら胃がん検診のバリウムを飲んだり、内視鏡検査を受けるより、ストレスのない生活をしてゆっくりお茶を飲むほうが長生きできそうな気がします。