(※写真はイメージです/PIXTA)

いまの日本では実体経済でお金が使われずに、金融経済でばかりお金が動いています。実体経済が萎縮していくと、企業は企業で、国内で商売しても、設備投資しても、人を雇ってもダメだという判断をします。日本経済の分岐点に幾度も立ち会った経済記者が著書『「経済成長」とは何か?日本人の給料が25年上がらない理由』(ワニブックスPLUS新書)で解説します。

日本の政治と政策が機能していない

■経済で日本のすべきこととは?

 

金融経済にあり余っている2000兆円(これは家計の金融資産だけです)は日本の国家予算7年ぶんくらいになります。膨大なお金です。これが金融市場をある意味で支えています。このお金を実体経済に取り入れればいいのですが、どうすればいいのでしょうか。

 

誰かが借りて実体経済にお金を流せばよいのです。

 

実体経済の主体は企業、家計、それから政府です。借金できるのはこの3つしかありません。

 

まず企業ですが、お金が余っていて、金融市場で運用している状態です。借金する必要はありません。家計はタンス預金では金利はありませんし、銀行に預けてもゼロ金利です。

 

ただ、株はリスクがあって不安、損をしたらばかばかしい。そんなわけで大雑把に計算すると2000兆円の家計の金融資産のうち、1000兆円、半分は現預金だといわれています。

 

その現預金が主として銀行に行きます。でも銀行は融資をしたくても「ダメですよ。みんな借りてくれない」という話が現実です。一方「どうしても貸してください」と言われても、「あんな中小のボロ企業に融資しても焦げ付くに違いない」と、銀行の支店長が皆怖がってお金を貸さないのです。結局、そういうことで実体経済のほうにお金が回らない。

 

お金が回っていくのは国内の株式市場、それから国債の購入です。これはコンスタントです。あとは金融市場を介して国外に行ってしまうわけです。だから外国の金融機関がどんどん日本の金融市場に入ってきて、「日本で資金調達したら安いぞ」というので、いくらでも需要が伸びていきます。つまり金融市場では活発にお金が動いているということです。

 

海外の金融機関は日本の余っているお金で儲かっているわけです。

 

こんな仕組みです。安い日本の余っているお金を資金にして、ドルに替える。それで例えばウォール街で人に貸すか、自分で投資するかなど、いろいろなルートでそのお金がウォール街の株価をどんどん上げているのです。ちなみに日本の株価はいつもウォール街に引き寄せられますから、ウォール街の株がどんどん上がったら、日本の投資家も儲かります。

 

日銀はアベノミクス以降、「量的緩和」といって、大いにお金を刷るようにしています。

 

お金を刷るというのはどういうことかというと、日銀が資産を買い入れるということです。買い入れるときにお金を発行するのです。発行したお金が日銀における金融機関の当座預金口座に―日銀営業局のパソコンのキーボードをピッと押したら、ポンとお金が移動するだけですが……。

 

それで今度金融機関はそのお金を持て余すことになって、金融市場にそのお金をパッと出します。そして待ってましたとばかりに国外の金融機関がそのお金を調達して、ドルに替えてどんどん運用します。

 

金融機関が国債を手放すと、資産はキャッシュに換わるわけです。キャッシュをたくさん持ってしまうことになります。これは運用しないと銀行業務が成り立ちません。

 

本来は、それだけお金が来たら、それをどんどん融資してという話なのですが、いくら政治家が「お金を融資するのは銀行の社会的使命だろ!」と迫っても「いやぁ、危なっかしいところばかりに融資して、焦げ付いたらどうしますか? そうしたら信用不安ですよ。どうしてくれますか、そのときは?」と返されたら、みんな黙ってしまいます。金融庁も銀行の健全経営を求めます。

 

銀行が消極的すぎるという部分も確かにあります。しかし、物事をきちんと経済学的に考えれば、そもそも実需(実際の需要)がないような経済にしたのは誰なんだと言いたいものです。実体経済にお金が流れないというのは、じつはそういうこと、つまり政治と政策がまともに機能していないからなのだよと。

 

それでいて、お金が無理なく実体経済に流れだす方法はあるのでしょうか?

 

田村 秀男
産経新聞特別記者、編集委員兼論説委員

 

 

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本連載は田村秀男氏の著書『「経済成長」とは何か?日本人の給料が25年上がらない理由』(ワニブックスPLUS新書)の一部を抜粋し、再編集したものです。

「経済成長」とは何か?日本人の給料が25年上がらない理由

「経済成長」とは何か?日本人の給料が25年上がらない理由

田村 秀男

ワニブックスPLUS新書

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