医療費は1,000万円程度が必要に
まず、老後に必要な医療費についてですが、これは人によって大きく異なります。ひと口に高齢者といっても、80代でもこれまでほとんど病院に行ったことがないという健康な方もいますし、一方で仕事を辞めた途端に体調を崩してしまうという方も少なくありません。そのため、どれくらい医療費を備えればいいのか、ということについては人によってさまざまで、一概には答えられません。
医療費に関しては、具体的な老後資金を想定するのは非常に困難なので、「不安ならそのぶん老後資金を増やしておきましょう」という回答に留まらざるをえないのですが、あえて目安を出すとするならば、医療費のみで1,000万円程度あれば十分だと考えられます。やはり100万円、200万円では足りないでしょう。
これは病気がちの方を想定した場合ですが、公的医療保険の月の自己負担上限額は、収入が少なければ5万円から8万円なので、病気がちの人の場合は、仮に上限額が5万円とすると10年間で約600万円が必要になります。加えて、保険適用外の医療を受け、さらに別に費用がかかるケースもあります。そうしたことも含め、どのような事態にも備えたいと考える場合は、やはり医療費としては1,000万円程度を想定しておく必要があると思います。
ただ、資金計画は長寿化に備えて多めに組んでいただくのが基本であり、医療費はその資金の中でまかなえると考えられるので、特別に老後の医療費分を貯めようとする必要はないと思います。それよりも、何歳までにどれくらいの額を取り崩し、どれぐらい額を残しておくかというベースの考え方をしっかり固め、それに合わせて資産を取り崩していくことが大事ですね。
介護費は子どもの有無で大きく異なる
医療費と共に、老後資金を考えるうえで欠かせないのが介護費です。
介護費の場合は、子どもの有無によってその額は大きく異なります。基本的には、子どもがいない場合は早々に施設に入る選択をすることになると思うので、在宅介護の期間は比較的短くなる傾向にあります。そうでなければ、社会問題にもなっているような「老老介護」の形になる可能性もあり、そうするとリスクも高まります。それを避けるためには、やはり早めに施設に入る形となり、コストもかなり高まるイメージですね。
子どもがいない前提で考えた場合、老人ホームなどの介護施設に入っている期間は10年を目安に想定しておくといいでしょう。もちろん施設にも拠りますし、途中から特別養護老人ホームに入るようなケースもあるので一概には言えませんが、一般的な民間の老人ホームであれば介護費はどうしても月に20万円を超える形になります。
そうした事情も含めて介護費を考えた場合、10年間ぶんの備えがあれば不安なく過ごせるのではないでしょうか。例えば一般的な老人ホームで月20万円ですと、年間で240万円が必要なので、仮に10年間入所したとすると2,400万円、さらに入所料もかかるのでおよそ3,000万円が必要ということになります。ただ、介護施設には3年から5年程度の期間にわたって入るケースが多いというデータがあるので、長くても10年程度というイメージですね。もちろん、10年後、20年後の世の中の健康状態がどのようになっているかは分からないので、これはあくまで現状のデータでの見通しです。
子どもがいれば介護費は割安に
一方、子どもがいるケースはどうかというと、例えば子どもが同居することを問題にしていなかったり、近隣に住むことが可能だったりする場合は、ある程度、在宅介護やデイサービスのような仕組みを使いながら生活していく形になります。その場合、コストとしては子どもがいないケースの半分程度になるのではないでしょうか。
例えば、先ほど子どもがいないケースで、介護施設に入所する平均期間は3年から5年程度とお伝えしましたが、子どもがいればこの期間内からはみ出さずに収まる形になるので、10年ぶんの備えは必要なくなるわけです。子どものいないケースの介護費について先ほど3000万円と言いましたが、その半分ぐらいのイメージですね。
例えばデイサービスのような施設を利用した場合は、月に5万円から10万円程度かかります。仮に月に10万円かかるとすると、年間120万円×5年分は必要となりますが、10年間グループホームなどの介護施設に入っている場合よりは、コスト感としては割安になるイメージです。このように、介護費とひと口にいっても子どもの有無や、子どもが遠方に住んでいるか近隣に住んでいるかなど、状況に応じて内容は変わってくるので、老後の介護費はそのあたりも考慮したうえで想定するのが良いと思います。