(※写真はイメージです/PIXTA)

台湾有事と朝鮮半島有事が同時に起きるシナリオは日米韓にとって最悪です。とくに米国にとって、台湾有事に集中したいときに発生する朝鮮半島有事への対応はきわめて難しい。元・陸上自衛隊東部方面総監の渡部悦和氏が著書『日本はすでに戦時下にある すべての領域が戦場になる「全領域戦」のリアル』(ワニプラス)で解説します。

台湾有事と朝鮮半島有事が同時勃発の可能性

■北朝鮮による攻撃シナリオ

 

安倍晋三政権は2017年当時、朝鮮半島で軍事衝突が起きた場合に備え、安全保障関連法に基づく「事態」別に、米軍との連携や自衛隊の具体的な対処を検討した。そのときのシナリオは、①米軍による北朝鮮への先制攻撃、②北朝鮮軍の韓国侵攻、③両軍の偶発的な衝突、④北朝鮮ミサイルの日本着弾などであった。

 

ここでは、主として北朝鮮による攻撃シナリオについて考察するが、つねにおこなわれるのが北朝鮮の特殊部隊による攻撃、サイバー攻撃、電磁波攻撃などである。それは以下のような攻撃である可能性がある。

 

●北朝鮮の可能行動の列挙

 

ケース1:通常弾頭の弾道ミサイルによる恫喝

スカッドER、ノドン、北極星2、ムスダンなどの短距離弾道ミサイル(SRBM)や準中距離弾道ミサイル(MRBM)を日本の領海内、離島などに着弾させる可能性がある。

 

ケース2:核EMP攻撃

核弾頭を搭載した弾道ミサイルを日本上空の高高度で爆発させる核EMP攻撃をおこなうことができる。

 

ケース3:在日米軍基地に対する通常弾道ミサイルによる攻撃
ケース4:日本の都市部に対する通常弾道ミサイルによる攻撃
ケース5:本格的な韓国への攻撃

 

蓋然性が高いのは、ケース1「通常弾頭の弾道ミサイルによる恫喝」であり、次いでケース2の「核EMP攻撃」であろう。

 

米軍人やその家族に被害が及ぶケース3や、日本の多くの民間人への被害が想定されるケース4では、米国による報復がおこなわれる可能性が高いので北朝鮮にとってハードルが高いであろう。

 

また、ケース5 「本格的な韓国への攻撃」は短期的には可能性は低いであろう。なぜなら、従来からの経済低迷に加えて、新型コロナに対する対応の不手際により、北朝鮮の経済は惨憺たる状況だからだ。食糧が不足するような困難な状況下で、短期的には北朝鮮が韓国に対して攻撃してくる可能性は低いと思われる。

 

仮に北朝鮮がケース1のような恫喝に合わせて「日本政府が米国や韓国に対する一切の軍事的支援をおこなわないのであれば、日本を標的とすることはない」との条件で、停戦や和平交渉を提案してきた場合、米軍の作戦行動に日本が「巻きこまれる」不安から、「在日米軍基地の使用を認めるべきではない」といった声が出て、世論が分断される恐れがある。

 

■最悪のシナリオは台湾有事と朝鮮半島有事が同時に勃発すること

 

中国と北朝鮮は1961年、「中朝友好協力および相互援助条約」を締結しているが、同条約には「自動介入」条項があり、朝鮮半島有事に際して中国が軍事介入する可能性は高い。

 

金正恩委員長は、習近平主席のもとを4回表敬訪問したが、これは現代の「冊封」である。

 

「冊封」とは漢以降の中国皇帝に周辺諸国の国主が貢物を献上して挨拶をし、その代わりに、それらの国が攻撃された場合、中国皇帝がその国を守るという関係だ。実際に、中国は朝鮮戦争において、北朝鮮との「血の友誼(ゆうぎ )」に基づき、北朝鮮を支援している。

 

現代において北朝鮮が挑発行為をくりかえしても、後ろ盾の中国は北朝鮮を見捨てていない。例えば、中国は北朝鮮に対する国連制裁を守らず、秘密裏に北朝鮮を支援している。

 

もしも中国が台湾を攻撃した場合、これに連動して北朝鮮が南進を開始するシナリオも考えられる。このシナリオは、米中が現在の関係よりもさらに悪化し、両国の衝突がアジア全域に波及するケースだ。台湾有事と朝鮮半島有事が同時に生起するシナリオは日米韓にとって最悪である。

 

とくに米国にとって、台湾有事に集中したいときに発生する朝鮮半島有事への対応はきわめて難しい。この際における日本の対応も非常に難しい。

 

渡部 悦和
前・富士通システム統合研究所安全保障研究所長
元ハーバード大学アジアセンター・シニアフェロー
元陸上自衛隊東部方面総監

 

 

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本連載は渡部悦和氏の著書『日本はすでに戦時下にある すべての領域が戦場になる「全領域戦」のリアル』(ワニプラス)より一部を抜粋し、再編集したものです。

日本はすでに戦時下にある

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渡部 悦和

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