(※写真はイメージです/PIXTA)

2016年11月のアメリカ大統領選挙は共和党のトランプ氏が勝利しました。その年の選挙前、ニューヨーク・タイムズは早々に、民主党のヒラリー・クリントン氏を支持すると表明しました。なぜでしょうか。ジャーナリストの岡田豊氏が著書『自考 あなたの人生を取り戻す不可能を可能にする日本人の最後の切り札』(プレジデント社、2022年2月刊)で解説します。

記者の取材が「既成事実」を覆す

■発表を鵜呑みにせず現場で掘り起こした真実


 
30年ほど前、共同通信の記者として私が赴任したのは山口県の山口支局でした。そこで出会った地元新聞の先輩記者Oさんは、駆け出し記者の私に大切なことを教えてくれました。

 

O記者は当時40代。

 

「よっ、少年。元気かぁ」

 

いつも、私にこう声をかけてくれました。赴任して1年くらいたったある夜、O記者が酒場に誘ってくれました。酒を酌み交わしながらO記者が語り始めました。

 

「役所や警察、企業の発表の通りに記事を書くことが我々の仕事じゃないんだ」

 

かつて、某学校で、教員が自殺しました。学校で不正があり、その不正を苦にして自殺した可能性が高いとメディアは報じました。その報道は警察や学校の発表をもとに流されました。

 

発表の後、O記者は、自殺した教員の自宅を訪れました。

 

「本当は何があったのか」

 

それを知りたかったからだそうです。自殺した教員の妻は当初、O記者の訪問を拒みました。

 

しかし、O記者は何度も足を運びます。ある日、教員の妻はO記者を家に入れ、線香を上げさせてくれました。それから敷居は低くなり、ある日、妻が「Oさん、実はこんなものがあるんです」とある物を見せてくれたそうです。それは自殺した夫である教員の遺書でした。遺書には、不正は自分がやったのではなく、別の教員が“主犯”だったという趣旨のことが書かれていたそうです。

 

O記者は遺書に書かれていた教員らを取材。事実は遺書の内容に近く、公表されなかった新たな事実が分かり、記事になりました。

 

発表を鵜呑みにせず、自分で現場に行き、自分で当事者に取材する。O記者の思いと行動は「既成事実」を覆しました。

 

この国の長い歴史の中で、葬られた事実は、どれくらいあるのでしょうか。そんな思いをめぐらしています。ひとつでも正確な事実を掘り起こし、伝える。そのために、流されず、発表を疑い、自分で考え、自分で取材する。O記者は今も問いかけてきます。

 

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本連載は、岡田豊氏の著書『自考 あなたの人生を取り戻す不可能を可能にする日本人の最後の切り札』(プレジデント社、2022年2月刊)より一部を抜粋し、再編集したものです。

自考

自考

岡田 豊

プレジデント社

アメリカでの勤務を終えて帰国した時、著者は日本は実に息苦しい社会だと気付いたという。人をはかるモノサシ、価値観、基準の数があまりにも少ない。自殺する人があまりにも多い。笑っている人が少ない。他人を妬む。他人を排…

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