(※写真はイメージです/PIXTA)

日本の宇宙開発の能力は世界的にみても高く評価されています。H2Aロケットについては、45回中44回も打ち上げに成功しているほど信頼性が高いロケットです。なぜ宇宙開発が遅れているのでしょうか。元・陸上自衛隊東部方面総監の渡部悦和氏が著書『日本はすでに戦時下にある すべての領域が戦場になる「全領域戦」のリアル』(ワニプラス)で解説します。

航空自衛隊「宇宙作戦隊」の役割

■「防衛計画の大綱」にみる「宇宙の防衛目的利用」の変遷

 

宇宙基本法の成立を受けて、宇宙を防衛目的のために利用することを初めて明記したのは、2010(平成22)年12月に決定された防衛計画の大綱(「22大綱」)だ。「22大綱」では、〈宇宙空間を使って情報収集をする。〉という限定的な表現を使った。

 

2013(平成25)年12月に決定された「25大綱」では、衛星をもちいた情報収集や指揮・統制・情報・通信能力の強化、光学やレーダーの望遠鏡で宇宙空間を監視すること、〈宇宙状況把握(SSA:Space Situational Awareness)〉が具体的な〈防衛的な宇宙利用〉であるとして記載されている。つまり、防衛目的の宇宙利用はより積極的なものとなった。

 

2018(平成30)年12月に決定された「30大綱」では、〈宇宙・サイバー・電磁波といった新しい領域における優位性を早期に確保すること〉と記述され、〈宇宙における優位性を早期に確保する〉という表現で、世界標準の考え方が示された。

 

また「30大綱」では、陸・海・空という伝統的な空間にプラスして宇宙・サイバー・電磁波の領域を加えた6つの領域(ドメイン)を相互に横断して任務を達成する、「領域横断作戦」が採用されたことも、特筆すべきだ。

 

「30大綱」に規定された自衛隊の宇宙にかかわる役割は次の通りである。


 
①日本の安全保障に重要な情報収集
②通信、測位航法等に利用されている衛星が妨害を受けないように、宇宙空間の常時継続的な監視をおこなうこと
③妨害を受けた場合には、どのような被害であるのかという事象の特定、被害の局限、被害復旧を迅速におこなうこと


 
これらの任務が「宇宙作戦隊」の任務に直結することになる。

 

我が国は「30大綱」でやっと宇宙戦を遂行するスタート地点に到達したのである。

 

■宇宙領域を担当する航空自衛隊「宇宙作戦隊」の誕生

 

戦後日本人にありがちだった「平和を唱えていれば平和が保たれる」という甘い考えは、「宇宙は戦闘領域だ」という主要国の考えとは大きな違いがあった。中ロが電波妨害で他国の人工衛星の通信能力を無力化する兵器の開発を進めている状況において、日本に宇宙戦の防御分野を担当する組織がなければ、大変なことになっていた。

 

幸いにも2020年5月、航空自衛隊に宇宙作戦隊が発足した。さらに防衛省は2022年度、第二宇宙作戦隊を航空自衛隊防府北基地に新設し、宇宙での警戒・監視態勢を強化することになる。第二宇宙作戦隊は約20人規模で、日本の人工衛星への電波妨害の監視・分析に従事する。

 

先に発足した宇宙作戦隊は第一宇宙作戦隊と改称され、他国の人工衛星の動向の把握など宇宙の状況全般の監視に当たることになる。第一作戦隊と第二作戦隊を統括する「宇宙作戦群」が2021年度中に新編され、その規模は合計120人に拡充される。自衛隊の宇宙作戦群は、米国や中国の宇宙関連部隊と比較すると小さな規模だが、宇宙戦の最前線を担当する組織として確実に任務を達成してもらいたいものだ。

 

ただ気になることがある。まず、日本の宇宙分野を統括するのは内閣府の宇宙開発戦略推進事務局だが、そのほかの機関として国立研究開発法人宇宙航空研究開発機構(JAXA)、内閣衛星情報センター、三菱重工業などの民間企業がある。それらの機関の宇宙領域の任務等の関係がどうなるかが問われる。

 

また、「宇宙作戦群」は、宇宙を担当して何をするのかが問われる。SSAだけでは中国やロシアの宇宙戦に対抗できない。SSAの次にくる重要な任務は「宇宙交通管理(STM: SpaceTraffic Management)」だ。このSTMをどの組織が担当するのか、その担当組織と「宇宙作戦群」との関係をどうするか等、明確にしておかねばならないことが山積している。

 

さらに、宇宙作戦群は日本の衛星の防護にも関与するのか、さらに対象国の衛星の破壊や機能麻痺を引き起こす対宇宙(攻撃的な宇宙戦)にまで踏みこむのかなどが問われる。

 

筆者は、解放軍の宇宙を担当する戦略支援部隊の能力を勘案すると、対宇宙の能力を抑止力として保有すべきだと思う。

 

また、自衛隊のミサイルなどの長射程化が予想されるが、攻撃目標の絞りこみ(ターゲティング)などに宇宙をベースとしたC4ISR(指揮、統制、通信、コンピュータ、情報、監視、偵察)能力は不可欠だ。この機能も宇宙作戦群が担当するのかなど、検討すべき事項は多いと思う。

 

さらに、宇宙戦と密接な関係にある情報戦、サイバー戦、電子戦を担当する日本の各組織との関係をいかに律するかも課題だ。その意味で、解放軍の「空天網一体化(空・宇宙・サイバー電磁波領域の一体化)」という四領域を融合する考え方は参考になる。

 

いずれにしろ、日本が宇宙戦において普通の国になるために克服すべき課題は多く、着実にその課題を克服していくべきだ。

 

渡部 悦和
前・富士通システム統合研究所安全保障研究所長
元ハーバード大学アジアセンター・シニアフェロー
元陸上自衛隊東部方面総監

 

 

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本連載は渡部悦和氏の著書『日本はすでに戦時下にある すべての領域が戦場になる「全領域戦」のリアル』(ワニプラス)より一部を抜粋し、再編集したものです。

日本はすでに戦時下にある

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渡部 悦和

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