(※写真はイメージです/PIXTA)

日本の宇宙開発の能力は世界的にみても高く評価されています。H2Aロケットについては、45回中44回も打ち上げに成功しているほど信頼性が高いロケットです。なぜ宇宙開発が遅れているのでしょうか。元・陸上自衛隊東部方面総監の渡部悦和氏が著書『日本はすでに戦時下にある すべての領域が戦場になる「全領域戦」のリアル』(ワニプラス)で解説します。

日本の宇宙開発を切り開いた北朝鮮

■日本の宇宙開発能力

 

日本においては、「宇宙の平和利用=非軍事利用」というガラパゴス思考が40年間も続いてきた。しかし、北朝鮮が1998年に弾道ミサイル・テポドンを発射して以降、国際標準である「防衛的な宇宙利用は宇宙の平和利用である」という考え方に転換せざるを得なかった。

 

日本の宇宙開発の能力は世界的にみても高く評価されている。日本が初めて人工衛星「おおすみ」(100%国産技術の固体燃料ロケット)を打ち上げたのは1970年2月のことで、これは中国よりも早く「アジアで最初、世界で4番目」の快挙だった。

 

さらに1998年には火星探査機「のぞみ」を打ち上げ、火星探査機を打ち上げた世界で3番目の国になった。また、探査機「はやぶさ2」を地球から約3億㎞も離れた小惑星「リュウグウ」に着陸させるなどの大きな成果をあげている。

 

また、H2Aロケットについては、45回中44回(2021年12月末現在)も打ち上げに成功しているほど信頼性が高いロケットであり、その打ち上げ成功率は約98%だ。さらに日本は、国際宇宙ステーション運用の参加国で、宇宙飛行士の養成や宇宙ステーション内での様々な実験により多くの科学的知見を得ている。

 

以上のような実績を積み重ねてきた日本だが、宇宙戦の分野では宇宙大国である米中ロに引き離されている。宇宙戦において、日本はG7構成国のなかではもっとも遅れた国であり、2020年5月に航空自衛隊に「宇宙作戦隊」が発足し、やっとスタートラインについた状況だ。遅れた理由は、憲法第九条に起因する「宇宙の平和利用」というイデオロギーだ。

 

■40年間続いた「宇宙の利用=非軍事利用」というイデオロギー

 

宇宙開発事業団(NASDA)を設置する際、日本の宇宙利用を非軍事に限定したいという思惑があった。そのため、「非軍事利用が平和目的の利用である」ことを明確にするために、「(日本の宇宙開発は)平和利用に限る」という国会決議が1969年に採択された。

 

しかし、国際的には、「平和目的の宇宙利用とは、防衛目的の軍事利用を含む」という了解がある。日本が約40年続けてきた、この「宇宙の非軍事利用=平和利用」というガラパゴス思考を打破するきっかけになったのは、北朝鮮が1998年におこなった弾道ミサイル・テポドンの発射であった。

 

日本の安全保障が北朝鮮の弾道ミサイルにより直接的に脅威を受けている現実を目の当たりにして、政府は情報収集衛星の保有を1998年に決めた。その際、自衛隊は衛星保有を禁止されていたために、内閣が所有・運用するという苦肉の策を採用した。

 

この自衛隊が衛星を保有できないという規定は現実に合致せず、結局2008年5月に制定された「宇宙基本法」により、「防衛的な宇宙利用は宇宙の平和利用である」という国際標準の考え方がやっと認められた。つまり、宇宙基本法は、日本の宇宙政策の最大の転換点となったのだ。宇宙基本法がもたらしたこの変化により、防衛省自身が衛星を所有することが可能となった。

 

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本連載は渡部悦和氏の著書『日本はすでに戦時下にある すべての領域が戦場になる「全領域戦」のリアル』(ワニプラス)より一部を抜粋し、再編集したものです。

日本はすでに戦時下にある

日本はすでに戦時下にある

渡部 悦和

ワニブックス

中国、ロシア、北朝鮮といった民主主義陣営の国家と対立する独愛的な国家に囲まれる日本の安全保障をめぐる状況は、かつてないほどに厳しいものになっている。 そして、日本人が平和だと思っている今この時点でも、この国では…

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