(※写真はイメージです/PIXTA)

トランプ大統領が勝利した2016年の大統領選挙では、米国の大手メディアは歴史に汚点を残しました。選挙戦の最中、新聞とテレビの多くがクリントン氏勝利を予測し続けました。ジャーナリストの岡田豊氏が著書『自考 あなたの人生を取り戻す不可能を可能にする日本人の最後の切り札』(プレジデント社、2022年2月刊)で解説します。

大手メディアはブッシュ政権に利用された

■ジャーナリズム先進国アメリカも参考にできなくなった

 

アメリカのジャーナリズムといえば、1972年にアメリカで起こった政治スキャンダル、「ウォーターゲート事件」を思い出します。ニクソン大統領を辞任に追い込んだワシントン・ポストをはじめとするアメリカのメディアの調査報道は、理想的なジャーナリズムの典型と位置付けられてきました。私もそうだったように、メディアを仕事にしようと目指した世界中の若者にとって、ある意味、お手本のような報道でした。

 

しかし、アメリカのメディアは2001年9月の同時多発テロの後、歴史的な“大罪”を犯しました。2003年にジョージ・ブッシュ大統領が始めたイラク戦争をめぐる大誤報です。

 

イラク戦争で死んだアメリカ兵は約4500人。アメリカに同調した多国籍軍の兵の死者は約300人。イラク側の犠牲者は、兵士、民間人合わせて推定で約50万人とされています。120万人という推測もあります。おびただしい数の犠牲者。この戦争をブッシュ大統領が始めた最大の根拠は「イラクが大量破壊兵器を保持している」でした。しかし、戦争の大義名分だった「大量破壊兵器」の証拠は結局は見つかりませんでした。

 

つまり、大手メディアは戦争を志向したブッシュ政権に利用されたのです。

 

ブッシュ政権は、大量破壊兵器保持に関わる偽りの情報をニューヨーク・タイムズやワシントン・ポストなど大手メディアにリークし、大手メディアはそれを鵜呑みにして右から左に、ウソを報じ続けたことになります。21世紀だというのに、先進国のアメリカでメディアがウソを伝え続け、戦争に加担したケースです。

 

大手メディアは結果的に、自国民や同盟国、相手のイラクの大勢の人々を死に追いやったと言われても仕方がありませんが、責任は誰も取っていません。責任を取ろうと思っても、死んだ後では取ることなどできません。だからこそ、メディアは、その瞬間に、その場で、事実と真実を報じることしか許されないのです。

 

イラク戦争をあおる愚かな報道が横行したアメリカで、当時、奮闘していた記者がいたことにも触れておきます。全米各地の地方新聞に記事を提供していた当時のナイト・リッダー社の記者は、独自の取材によって、大手メディアと相反する記事を出していました。「イラクが大量破壊兵器を保有し、サダム・フセインはアルカイダと関係がある」というイラク戦争の根拠にされた情報を否定し、ブッシュ政権を批判する真実に近い記事を書いていました。

 

政治権力に踊らされず、良心ある政府関係者らにアプローチし、“本当の”事実を掘り起こしたのです。こうした記者たちがいたことは覚えておきたい。

 

トランプ大統領が勝利した2016年の大統領選挙もまた、アメリカの大手メディアの歴史に汚点を残しました。11月8日の投開票日の夜。その衝撃はアメリカのみならず、世界中を駆けめぐりました。開票が始まったころも、民主党のヒラリー・クリントン氏が新しい大統領に選ばれると思い込んでいた人が多かったに違いありません。

 

しかし、結果はトランプ氏の勝利。選挙戦の最中、新聞とテレビの多くがクリントン氏勝利を予測し続けました。

 

イラク戦争のように、大勢の犠牲者が出たわけではありませんが、結果的には、アメリカのメディアの“誤報”だと私は捉えています。取材力と世論調査の稚拙さ、精度の低さ、思い込み。現場で起きている事実に謙虚に向き合わなかった結果です。アメリカのジャーナリズムをお手本にする時代は終わりました。

 

岡田 豊
ジャーナリスト

 

 

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本連載は、岡田豊氏の著書『自考 あなたの人生を取り戻す不可能を可能にする日本人の最後の切り札』(プレジデント社、2022年2月刊)より一部を抜粋し、再編集したものです。

自考

自考

岡田 豊

プレジデント社

アメリカでの勤務を終えて帰国した時、著者は日本は実に息苦しい社会だと気付いたという。人をはかるモノサシ、価値観、基準の数があまりにも少ない。自殺する人があまりにも多い。笑っている人が少ない。他人を妬む。他人を排…

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