(写真はイメージです/PIXTA)

残業代の支払いは企業としての義務です。もし残業代が適切に払えておらず、従業員から請求されてしまった場合、企業側は様々な損失を被ることがあります。今回は、残業代請求されてしまった場合に起こり得る弊害や、企業が残業代を請求された裁判事例、残業代請求に備えた対策について、Authense法律事務所の西尾公伸弁護士が解説します。

 

残業代の支払義務について

残業代の支払いは、労働基準法に明記された、企業としての義務です。 適切な残業代を支払っていない場合には、従業員から未払い残業代を請求されてしまうかもしれません。 残業代の請求には、次の2つのパターンが存在します。

 

1.退職した社員からの残業代請求

未払い残業代は、退職をする従業員から退職のタイミングで行われることが少なくありません。 また、すでに退職した従業員から、突然過去の未払い残業代を請求されるケースもあるでしょう。

 

2.在籍中の社員からの残業代請求

近年、在職中の従業員から過去の未払い残業代を請求されるケースも増加傾向にあります。 この場合には特に、ほかの従業員への影響に注意が必要です。

従業員に残業代を請求された場合に生じるリスク

企業が従業員から残業代の請求をされた場合、主なリスクとしては次のものが挙げられます。

 

高額な支払いが発生する

残業代は、最大2年分遡って請求される可能性があります(2020年4月1日以降に発生した分は3年分)。 たとえ日々発生した残業代は少額であったとしても、積もり積もれば高額となるケースは少なくありません。

 

また、裁判において残業代を請求する際、残業代と同額の付加金という金銭も併せて請求することができます。さらに、従業員がすでに退職していた場合には、未払い残業代について年14.6%の割合で遅延損害金が発生します。この遅延損害金も加えて請求された場合、請求額が大変高額になるため、全額認容された場合、企業の資金繰りが悪化してしまう可能性が高いです。 

 

労基署の調査が入る可能性がある

労働基準監督署(労基署)とは、事業所が労働関係の法令を守っているかどうかを監督する機関です。 残業代の未払いについて従業員が労基署へ通報すると、企業に対して労基署が調査に入る可能性が高いでしょう。

 

調査の結果問題があると判断されれば、是正勧告や改善指導がなされるほか、この是正勧告や改善指導に従わなければ、最悪の場合検察庁に送致され起訴される可能性があります。

 

ほかの従業員に影響が波及する

一部の従業員から未払い残業代請求がなされた場合には、ほかの従業員への影響に注意しなければなりません。未払い残業代の請求が認められたとの情報が拡がれば、ほかの従業員からも相次いで未払い残業代の請求がなされる可能性があるためです。

 

大人数からまとめて残業代の請求がなされれば、支払いができず、企業の経営を左右する問題にまで発展するかもしれません。また、未払い残業代請求に対する企業の対応によっては、ほかの従業員のモチベーションが低下したり退職者が急増したりするリスクもあります。

 

次ページ従業員が残業代請求できないケースとは

本記事はAuthense企業法務のブログ・コラムを転載したものです。

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