(写真はイメージです/PIXTA)

残業代の支払いは企業としての義務です。もし残業代が適切に払えておらず、従業員から請求されてしまった場合、企業側は様々な損失を被ることがあります。今回は、残業代請求されてしまった場合に起こり得る弊害や、企業が残業代を請求された裁判事例、残業代請求に備えた対策について、Authense法律事務所の西尾公伸弁護士が解説します。

 

従業員が残業代請求できない3つのケース

従業員が残業代を請求できないケースとして、次の3つが存在します。

 

1.管理監督者に該当する場合

当該従業員が、労働基準法上の「管理監督者」に該当する場合には、原則として残業代の支払いは発生しません。 管理監督者とは、労働条件の決定そのほか労務管理について、経営者と一体的な立場にある者のことです(※1)。

 

一般的には、店長や部長などの肩書を有する従業員がこれに該当する可能性が高いでしょう。 ただし、労働基準法上の管理監督者に該当するかどうかは、「部長」「店長」などの役職名のみで判断されるわけではありません。

 

過去の事例では、ある従業員の肩書が「店長」などであったとしても、

 

・売上金の管理、アルバイトの採用の権限がなかった

・ 勤務時間の定めがあり、毎日タイムカードに打刻していた

・通常の従業員としての賃金以外の手当はまったく支払われていなかった

 

という場合、労働基準法上の管理監督者として認められなかったという事例があります。 自社の従業員が管理監督者にあたるかどうか判断に迷う場合には、弁護士へご相談ください。

 

※1 厚生労働省:労働基準法における管理監督者の範囲の適正化のために

 

2.裁量労働制の場合

裁量労働制とは、勤務時間や業務の時間配分を個人の裁量に任せる制度です(※2)。 新聞記者など19の業種に限定された「専門業務型裁量労働制」のほか、一定の要件を満たした事業場で採用できる「企画業務型裁量労働制」が存在します。

 

裁量労働制を採用した場合、労使で合意をした「みなし労働時間」が法定労働時間である8時間を超えない場合には、原則として残業代は発生しません。ただし、この場合であっても、深夜残業や法定休日(週1回の休日)、休憩時間の割増賃金規定は適用されます。

 

職場で裁量労働制を適用するためには、労働時間としてみなす時間などを労使協定で定め、所轄労働基準監督署長に届け出る必要があります。

 

※2 厚生労働省:裁量労働制の概要

 

3.事業場外労働の場合

事業場外労働とは、出張や外回りが多い営業職など、労働時間の全部又は一部について事業場外で業務に従事し、かつ労働時間が算定し難い労働を指します。

 

この場合に、みなし労働時間制を採用することで、実際の残業時間ではなく、あらかじめ労使間で取り決めた労働時間で残業代を計算することが可能です。

 

ただし、スマートフォンなどの通信機器が普及している現代では、「会社が労働者の実労働時間を正確に把握することが困難な労働」は非常に限定的に解される傾向にあります。

 

また、みなし労働時間制を採用したからといって、深夜残業や法定休日(週1回の休日)の割増賃金規定まで適用除外となるわけではありません。

 

次ページ企業側が負けた過去の裁判事例

本記事はAuthense企業法務のブログ・コラムを転載したものです。

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