(※写真はイメージです/PIXTA)

介護保険制度は福祉を充実させたように見えますが、高齢者を施設に集めるか、家に訪問することになり、閉じ込められているようです。歩けるうちは、杖でも押し車でも、ちょっとした旅に出られる町にすることが福祉の充実には必要です。老人医療に詳しい精神科医の和田秀樹氏が著書『80歳の超え方 老いは怖くないが、面倒くさい』(廣済堂出版)で解説します。

介護保険制度は高齢者を建物に閉じ込める

■ちょっとした旅が、私たちには必要だ

 

「この年でどこへ行っても仕方ない」「若いときに十分旅行したから、何も見なくてもいいわ」とひきこもっている方がいます。このコロナ禍の自粛生活で、ますます出不精になった方も多いでしょう。

 

旅は遠くに行くことだけではありません。

 

日常からちょっと切り離された場所に行くことも旅です。

 

新しいカフェに入ってみる、電車で桜のきれいな公園へ出かけてみる、祭りや市場に出かけて、パンや野菜を買うだけでも贅沢な気分になれます。旅はまわりにいくらでも転がっています。

 

年をとると、世の中を知った気になってしまうことがあります。自分がそう思うようになったら、脳が凝り固まっていっていると気がついてください。

 

世界は日々違います。季節は一日一日変わっていきます。山手線に乗っていても見えるものがあります。そういえば、やることがないので、半日ぐらい山手線をグルグルまわって景色と人を見て楽しむという人もいました。

 

コロナ感染が収まり(私はいまなら十分収まったと思っていますが)、お金があるなら、どんどん遠くへと旅してください。「疲れる」というのは旅に観光を盛り込み過ぎなのかもしれません。一か所を大事に観光してゆっくりするのがいいでしょう。

 

2021年にアカデミー賞で主要3部門を受賞した映画『ノマドランド』は、高齢者が車でアメリカの季節労働者として働きながら旅する様子が描かれています。自分の家をなくして帰る場所のある人もいますが、車の生活をする人もいます。

 

『ノマドランド』の放浪者が選んだのは自由でした。最後は家族に引き取られたり、施設に入ったりするかもしれません。旅の途中、ひとりで死ぬかもしれません。それでも自由を選びました。

 

こういう方たちは、自分がもし認知症になったらと心配はしないでしょう。ひとりで生きていくためには、予定を立て地図を見て考えます。ときどき「アマゾン」でバイトをしたり、放浪者の集まるコミュニティに参加したりして人とも交流します。この映画の中で美しいのは自然の景色です。私もひさしぶりに車でアメリカを走り抜けてみたくなりました。

 

行くことのかなわぬ未知な土地への憧れを持つことは、いくつになっても大事だと思います。

 

世界中だけでなく、あなたの住む地域にも知らない場所、未知な空間、歩いたことがない裏道があります。『ノマドランド』の放浪者になれないまでも、毎日「どこに行ってみようかな」と考えるだけでもよい脳トレになるはずです。

 

高齢者や障害を持つ人は家に引っ込んでいろという風潮に抗うためにも、みんなで外に出ていきましょう。

 

大きな通りにはベンチを置いてもらい、公園やスーパーには無料で談話できる場所をつくる、駅の歩道橋にはエスカレーターをつける、段差をなくす。こういうことが必要とされているのに、ユニバーサルデザインという言葉が出てきて久しくなるわりには、町はあまり変わっていません。

 

介護保険制度は福祉を充実させたように見えますが、施設に集めるか、家に訪問することになり、なんだか閉じ込められているようです。歩けるうちは、杖でも押し車でも、ちょっとした旅に出られる町にすることが福祉の充実には必要なはずです。

 

だから、私は、「徘徊しても安全な町をつくってくれ」と言いたいのです。

 

次ページ思ったより世間は高齢者にやさしい人が多い

本連載は和田秀樹氏の著書『80歳の超え方 老いは怖くないが、面倒くさい』(廣済堂出版)より一部を抜粋し、再編集したものです。

80歳の超え方 老いは怖くないが、面倒くさい

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