思ったより世間は高齢者にやさしい人が多い
■相手の親切を引き出す力とは?
身近な旅をしてみましょうと言いました。ただし、忘れっぽくなったり、自分の居場所がわからなくなったりして心配になることもあります。すると、「認知症になってきたな、外に出るのはよそう」という方向になります。
しかし、思ったより世間は高齢者にやさしい人が多いです。道がわからなくなったら若い人に聞いてみましょう。すぐにスマホで調べてくれて丁寧に教えてくれる人がたくさんいます。
「本当にボケてダメね」と言い、若い人に感謝しましょう。相手も気持ちがいいでしょう。
相手の親切を引き出すのが、「ボケ力」です。
道を教えてあげたり、席をゆずってあげたり、荷物を運んであげたり……人はちょっとした親切をすると気持ちのいいものです。接客のような仕事をしている人でも同じなのかもしれません。だから、老いたら、親切をされる隙をあえて持つことも大事かもしれません。
認知症の当事者で本も書かれている丹野智文さんという方がいます。2013年、39歳のときに若年性アルツハイマー病と診断されました。
診断される3年前から物忘れが始まり、同僚の名前も忘れるようになって受診したそうです。診断されて、どんなに絶望したことでしょう。当時、若年性アルツハイマー病は進行が速いと思われていました。丹野さんも窓口に相談へ行くと、いずれ介護が必要になるからと介護保険の説明ばかりされたと話していました。
2022年の現在も、丹野さんはもとの会社に所属し、講演をして歩き、ラジオやテレビに出ています。
認知症は少しずつ進行しているとのことです。それでも工夫して生活しています。
会社に通うときに、地下鉄の乗り継ぎで自分の居場所がわからなくなってしまうことがありました。人に道を聞くと怪訝な顔をされます。30代の男性が「出口がわかりません」と言っても冗談だと思われるのでしょう。「新手のナンパですか」と返されたこともあったそうです。
そこで、丹野さんは「自分は若年性のアルツハイマーを患っています」というカードをつくって見せる方法を考えました。それを見せると、みなさん親切に教えてくれるそうです。
70代を超えた老人は、丹野さんほどの苦労はしないでもボケを演じれば、たいていの人は親切にしてくれます。相手も「お年寄りに親切にできた」と満足できるでしょう。
「人になど頼りたくない」「人に声を掛けるのは恥ずかしい」と思う方もいるでしょうが、老いたら一歩ひいて、ありがたく親切を受け、感謝する姿を見せることも次世代につなぐ「ボケ力」だと思います。
和田 秀樹
和田秀樹こころと体のクリニック 院長
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