防衛費は予算の不透明性につながる
一方で、装備品の調達に対する支出については思いのほか少ないという印象を持ったかもしれません。
たとえば空母は単純な建造費だけでも数千億円のレベルですし、航空機も1機あたり100億円を超えることも珍しくありません。こうした装備品を大量に調達すれば、あっという間に予算のほとんどを使ってしまいそうです。
一般的に装備品の調達は、一度に行わず分割して実施されます。艦船なども、建造の進捗に合わせて支払いを実施するといった措置が取られますので、すべての費用を一回で支払うわけではありません。また、こうした装備は常にメンテナンスを行い、修繕を重ねていく必要があります。トータルコストということになると、初期の調達費用をはるかに上回る金額が投じられることになります。
このため、装備にかかる総費用というのは、毎年の予算額に出てくる数字だけでは、なかなかわかりにくいものがあります。こうした金額について理解するためには、どのような装備を何年かけて、トータルでいくらの支出を実施するのかという視点が必要となります。
■防衛費は予算の仕組みも特殊
ちなみに、政府の予算は、一般的に単年度主義と呼ばれる仕組みになっており、その年に徴収した税金で、その年に必要な経費を賄う必要があります。今年は払えないので、来年以降に支払うといったような、一種のツケのようなことはできないルールになっているのです。その理由は、政府がそのようなことを行ってしまうと、支出に歯止めがかからなくなり、財政が破たんしてしまう可能性があるからです。
しかし、先ほど説明したように、防衛費の中には、複数年度にわたって調達を実施するものもあります。このため、防衛費など特殊な状況にある予算については、国庫債務負担行為といって、複数年度にわたる予算をある年度の予算で確保するという仕組みが用いられることがあります。したがって、防衛省が毎年支出する金額と、予算として確保した金額はズレが生じることになります。
また、装備品についても、特注になるケースもしばしばあり、これを請け負うメーカーにとっては大量生産によるコストメリットを享受できないことがあります。このため、単価に一定の利益率を上乗せするGCIP(一般管理及び販売費率、支払利子率、及び利益率)という算出方法が用いられたりしています。
こうした仕組みは、防衛予算を扱う上ではやむを得ないものですが、一方で予算の不透明性につながるという指摘も出ています。
※各種統計の数字は基本的に書籍が出版された2016年当時のものです。
加谷 珪一
経済評論家
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