原子力空母は毎年800億円の経費、トータルコストは4兆円

戦争にはいくらお金がかかるのか⑤

原子力空母は毎年800億円の経費、トータルコストは4兆円
米軍空母ロナルド・レーガン。(※写真はイメージです/PIXTA)

空母は米国の世界戦略の中核となる兵器であり、空母をたくさん保有することが、米軍のプレゼンス強化につながっていました。最近では、兵器のハイテク化やコンパクト化が進み、空母のコスト効率の悪さが目立つようになってきています。経済評論家の加谷珪一氏が著書『戦争の値段 教養として身につけておきたい戦争と経済の本質』(祥伝社黄金文庫)で解説します。

原子力空母のトータルコストは4兆円

では、軍隊の装備品には具体的にどのくらいのお金が必要となるのでしょうか。

 

ここでは、原子力空母を例に、トータルでどの程度のコストがかかるのかについて考えてみたいと思います。

 

■空母は、世界戦略の中核となる装備

 

空母(航空母艦)とは、飛行甲板を持った大型艦のことで、大量の航空機を運び、紛争地域の近くで航空機を展開することができます。空母を1隻保有していれば、小国1国を滅ぼすことは容易ともいわれており、空母を持つことの意味は極めて大きいというのが現実です。

 

現代の軍隊ではもっとも重要で、かつ高額な装備品の1つとい米国は現在、原子力空母を11隻保有していますが、オバマ政権は米国の安全保障政策の転換を進め、中東への関与を大幅に縮小しました。またこれに合わせて、大規模な軍縮を実施しましたから、空母の保有数についても、削減しようという動きが見られました。

 

かつて空母は、米国の世界戦略の中核となる兵器であり、空母をたくさん保有することが、そのまま米軍のプレゼンス強化につながっていました。しかし最近では、兵器のハイテク化やコンパクト化が進み、空母のコスト効率の悪さが目立つようになってきています。

 

一方で、中国の軍事的台頭から、まだまだ空母は必要という見解もあり、米国内では空母の是非をめぐって激しい議論が行われています。将来的に空母がどうなるのかはまだわかりませんが、当分の間、米国の中核的な装備という位置付けは変わらないでしょう。

 

■空母は50年かけてコストを支払っていく

 

下図は、現在、米海軍の主力となっているニミッツ級原子力空母のコスト総額を示したものです。空母の建造から運用、廃棄までに必要なコスト総額は約4兆円となります。しかし、この4兆円は一度に必要となるわけではありません。

 

現代の原子力空母の耐用年数は約50年ですから、50年という年月をかけて総額で4兆円が支払われることになります。

 

空母の配備で最初にかかる経費は当然のことながら、空母そのものの建造費です。

 

原子力空母の直接的な建造費は約7300億円になります。しかしこれは、艦の建造に必要な初期コストに過ぎません。

 

先ほど説明したように、原子力空母は通常、50年の耐用年数があります。しかし、建造してから25年を経過すると、内部の原子炉に装塡されている核燃料を交換する必要があり、胴体を切断する大規模な工事を実施しなければなりません。

 

これには通常2年から3年の期間と、4300億円のコストを必要とします(通常型空母であっても、50年の耐用年数をまっとうするためには、やはり大規模な改修工事が必要となります)。最終的に艦の建造や修繕に必要なコストの総額は約1兆1600億円となります。

 

ちなみに、米軍は日本の横須賀基地に原子力空母ジョージ・ワシントンを配備していましたが、同艦は2015年からこの大規模修繕期間に入るため米国に帰還しています。現在は、その代役として同型艦であるロナルド・レーガンが、同じく横須賀に配備されています。

 

加谷珪一著『戦争の値段 教養として身につけておきたい戦争と経済の本質』(祥伝社黄金文庫)より。
加谷珪一著『戦争の値段 教養として身につけておきたい戦争と経済の本質』(祥伝社黄金文庫)より。

 

次ページ中国による空母配備は日米にとって脅威

本連載は加谷珪一氏の著書『戦争の値段 教養として身につけておきたい戦争と経済の本質』((祥伝社黄金文庫)より一部を抜粋し、再編集したものです。基本的に書籍が出版された2016年当時の記述となっており、各種統計の数字は2016年時点のものです。国際情勢が変化し、追記が必要な部分については、著者注として補足しています。

戦争の値段――教養として身につけておきたい戦争と経済の本質

戦争の値段――教養として身につけておきたい戦争と経済の本質

加谷 珪一

祥伝社

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