テロは経済に悪影響を与えない
ここまでは基本的に大規模な戦争を例に、戦争と経済の関係について解説してきましたが、最近ではテロによる経済への影響も無視できないようになっています。テロ活動の活発化は、近年特有の現象ですから、注目しておく必要がありそうです。
■テロと経済成長率の相関はほとんどゼロ
あまり知られていませんが、実はここ数年、全世界的にテロの発生件数が増加の一途を辿っています。
米メリーランド大学の調査によると、2014年は約1万7000件のテロが発生し、これによって全世界で約4万4000人が死亡しています。2000年から2010年までのテロ発生件数は平均すると年2500件程度ですから、2010年以降にテロが急増したことになります。
ただし、テロ1件あたりの死亡者数を見ますと、大きく上昇していませんので、小規模なテロが頻発している状況であることがわかります。
テロが発生すると、人々は精神的に大きな影響を受けることになります。
2015年に発生したパリの同時多発テロは、世界の人々に大きな衝撃をもたらしました。直接被害を受けた国では、精神的なショックからなかなか立ち直れず、経済活動が停滞するかもしれません。また観光地への旅行を控えるケースが増えてくるため、観光業や運送業には直接的な影響が及ぶ可能性もあります。
テロが増加すると、テロ対策も強化されることになりますが、これが経済活動を妨げる可能性も無視できません。
パリのテロでは、容疑者が欧州域内を自由に行き来していたことが問題視され、フランス政府は国境での警備活動を強化する方針を打ち出しています。空港などにおける警備強化は、スムーズな人とモノの移動を抑制することにつながるでしょう。
では、テロの発生は、グローバルな経済活動にどれほどのマイナスを与えるのでしょうか。メリーランド大学の調査結果をもとにテロと経済の関係について分析してみると、意外な結果が得られます。
1980年以降におけるテロの発生件数と全世界の実質GDP(国内総生産)成長率をグラフ化してみると、見た目からは明確な相関が感じられません(図)。2つの項目について、相関係数をとってみるとマイナス0.08となり、数字の上でも両者に明確な相関はありませんでした(係数がゼロに近いと相関がないと判断されることになります)。
学術的に厳密な分析ではないので、安易な結論は禁物かもしれませんが、おおよその傾向をつかむには十分な情報量です。テロの発生は経済活動にはあまり影響しないと考えて差し支えないでしょう。
(図版)出典)加谷珪一著『戦争の値段 教養として身につけておきたい戦争と経済の本質』(祥伝社黄金文庫)より。