兵器のハイテク化が人件費を抑えている
ひとくちに戦争のコストといっても、その資金使途は様々です。
最初に思い浮かべるのは、車両、航空機といった装備品や、弾薬、ガソリンなどの消耗品に関する支出でしょう。これらは、作戦の規模が大きくなるほど、軍隊の規模が大きくなるほど増加してくることになります。
兵員の人件費や生活費なども必要となります。軍隊の編成単位の1つに師団というものがありますが、これはだいたい1万人程度の兵員で構成されています。1個師団の部隊を1日動かすだけで、1日3食の1万人分ですから、3万食分の食料が必要となります。
また軍隊は巨大な公務員組織ですから、兵員に対する給料の支払いや人事の管理だけでも相当な事務作業が発生します。これを担当する事務職員も大量に雇わなければなりません。また、新しい兵器を開発するための研究費用や医療施設の運営費なども必要となってきます。
■軍事費で人件費より燃料や資材費の割合が多い理由
下図は米軍における軍事費のおおよその内訳です。軍事費全体のうち、もっとも大きな割合を占めているのが、燃料や資材など、軍事的なオペレーションの実施に必要となる経費です。オペレーション費は全体の約34%を占めています。
次に多いのは人件費で全体の約23%程度、続いて装備品の調達費が約16%、研究開発費が約11%と続きます。
先ほど米国の戦費について解説しましたが、朝鮮戦争からイラク戦争までの戦費と動員兵力の関係を見ると興味深いことがわかります。年代が新しくなるにつれて、戦費総額が大きくなりますが、兵員数はあまり増えていません。つまり兵器のハイテク化がかなりのスピードで進行しており、戦争のコストに占める人件費の割合が低下しているのです。
この動きは、ドローン(無人機)などのロボット兵器の登場で、今後、再び加速する傾向にあります。各国はハイテク兵器への支出を増やし、人員を次々に削減しています。近い将来、先進国にとっての戦争は、人員をできるだけ投入しないスタイルに変わっていくでしょう。
直近の動向を見てもそれは明らかです。1980年時点における米軍の兵員数は200万人以上でしたが、2014年は134万人まで減っています。
こうしたトレンドに反して、先進国では日本だけが、防衛予算に占める人件費の割合があまり変化していません。兵器のハイテク化ということを考えると、少々気になる傾向といえます。
それはともかくとして、戦争に対する支出というものは、年々、装備や関連技術に対する支出というニュアンスが強くなっていると考えた方がよいでしょう。