米国の戦費負担は思いのほか軽いという事実
米国にとっても、太平洋戦争は負担の大きい戦争でした。太平洋戦争を含む第二次世界大戦は、米国の歴史の中でも突出して戦費のかかった戦争です。
■財政の維持が厳しい日本、余裕の米国
図1にあるように第二次世界大戦の戦費総額は、約3000億ドル。開戦当時の米国のGDPは920億ドルなので、GDP比は3.2倍となります。絶対値としてはかなり大きい数字ですが、GDPの8.8倍を投入した日本と比べると相対的な負担はかなり軽いと見てよいでしょう。
ちなみに当時の米国のGDPは、名目値で日本の10~12倍、購買力平価でも5倍以上の差がありました。
10倍以上の経済規模があり、極めて高い技術力を持つ米国と全面戦争したわけですから、常識的に考えて勝ち目はありません。もう一方の当事者である米国側の数字からも、やはり日本が太平洋戦争を戦う合理性はないと判断せざるを得ないでしょう。
米国は第二次世界大戦後、朝鮮戦争、ベトナム戦争、湾岸戦争、イラク戦争という4つの大きな戦争を実施しています。これらの戦争は、絶対水準としては決して小規模なものではありませんが、米国の経済規模が突出して大きくなっていますから、経済規模に対するインパクトはそれほど大きくありません。
朝鮮戦争は、のべ570万人の兵力と300億ドルの経費を投入しています。しかし期間が36カ月と比較的短期間で、GDPとの比率では0.1倍と低い水準に抑制されていました。
泥沼の戦争と呼ばれ、米国衰退のきっかけになったともいわれているベトナム戦争も、数字上はそれほど大きなインパクトではありません。のべ兵力は870万人、戦費総額は1100億ドルに達しますが、GDPに対する戦費の規模は0.15倍であり、朝鮮戦争の1.5倍程度です。
イラク戦争の戦費は1兆370億ドル、のべ動員兵力は200万人です。米国経済は90年代に入って再びめざましい成長を遂げましたから、イラク戦争のGDP比もわずか0.1倍にとどまっています。
各戦争の戦費負担は、すべてGDP比の15%以内に収まっていることがわかるでしょう。戦争は数年にわたって実施されることになるので、1年あたりの金額はさらに小さくなります。太平洋戦争以降の米国にとって、これらの戦争を遂行する経済的な負担は大きくなかったというのが現実です。
図2は日本と米国の年間軍事費とGDPの比率の推移に関するグラフです。戦前の日本は経済の基礎体力が小さいですから、相対的に米国よりもかなり無理をして軍事費を支出している様子がよくわかります。太平洋戦争末期のピーク時には、1年の軍事支出がGDPを上回る水準となっており、財政の維持が不可能な状況にまで追い込まれました。
米国は第二次世界大戦のピーク時であっても、年間の軍事支出はGDPの3割に収まっています。また戦後は朝鮮戦争で出費が増えるものの、その後は、経済成長のペースが速く、基本的にGDPに占める軍事費の割合は下がる一方です。
ちなみに、戦後の日本は、防衛費のGDP比1%枠という政策によって、軍事支出のGDP比はほとんど変化していません。