過去の戦争で経済はどう動いたか
理屈の話はこのくらいにして、過去の戦争において現実に経済がどのように推移したのか検証してみたいと思います。
戦争には巨額の経費が必要となるため、戦争の遂行は経済活動にかなりのインパクトを与えることになります。教科書的な考え方では、戦争の遂行は、GDPの構成要素の1つである政府支出を増大させるため、その分、名目GDPが拡大します。
戦争への出費が、さらなる消費や投資の拡大、生産性向上などにつながれば、実質GDPの継続的な拡大に結びつくでしょう。一方、戦争への出費が、生産性の向上や消費の拡大につながらなければ、むしろ逆効果になるかもしれません。さらに、戦費の調達が無理な借金によるものであれば、金利の上昇や悪性のインフレをもたらす可能性があります。
■開戦で経済は上向くが、戦後に反動不況がやってくる
図3-1は戦前期の日本における実質GDP(当時はGNP)の推移をグラフにしたものです。実質GDPを示す棒グラフのうち、戦争期間中は色を変えて表示してあります。
グラフを見ると、どの戦争についても、戦争の遂行によって実質GDPが上昇していることがわかります。
実質GDPは、物価の影響を除いた数値ですから、実際に国がどのくらい豊かになったのかを示す指標といい換えることができます。数字の上では、戦争遂行は経済に悪い影響を与えていないように見えます。
しかし、日本が直接当事者となった日清戦争、日露戦争、太平洋戦争では、戦争終了後に反動が起こり、実質GDPの低下が見られました(図の矢印部分)。
日清戦争と日露戦争は、日本が新興国として高い経済成長を実現している間に実施されましたし、戦費は、経済の基礎体力の範囲内にギリギリ収まっています。後の太平洋戦争と比べれば経済合理性のある戦争といってよいでしょう。
それでも、戦争の終了後には、どちらも戦後不況ともいうべき不景気が発生しており、経済の停滞は思いのほか長く続きました。太平洋戦争後の経済の縮小に至っては、破壊的水準であり、日本経済は完全に破たんしたと解釈すべきです。
少なくとも、日本が過去に経験した大きな戦争においては、開戦後、すぐに経済が縮小するようなことはありませんでしたが、戦後になって、悪影響が顕在化してくるという共通パターンがあるようです。
一方、日本が直接戦争の当事者になっていない戦争ではまったく異なる傾向が見られます。第一次世界大戦では、戦争開始直後から実質GDPが急上昇し、日本は空前の好景気を謳歌することになりました。戦後の反動不況もありましたが、それまでに得られた利益を比較すると、トータルの収支は完全にプラスといってよい状況です。