中国の暴走を止めるためにロシアのように日米欧は金融制裁ができるでしょうか。世界の金融市場に占める中国のシェアが非常に大きいのです。もし中国の大手銀行に対して、香港ドルとアメリカドルの交換を全面的に禁じると、国際金融市場が大パニックになります。日本経済の分岐点に幾度も立ち会った経済記者が著書『「経済成長」とは何か?日本人の給料が25年上がらない理由』(ワニブックスPLUS新書)で解説します。

中国の暴走を抑える金融面からの封じ込め

■中国を抑えるには

 

中国の武漢が発生源となった新型コロナですが、パンデミックになって世界中が不況に陥った結果、各国が財政出動して、お金をバンバン刷っています。その結果、お金が余って、中国に流れています。中国にとってはいいことばかりです。

 

現状は中国のひとり勝ちですが、これがエスカレートして台湾有事に繫がりかねません。これ以上の、やはり金融面から中国を封じ込めないと難しいと思います。

 

軍事で抑えるという話もありますが、現実的に軍事は無理です。下手すると核を使うこともあり得ますし、そもそも限界があります。

 

金融以外の経済制裁といっても、貿易では不十分であることがわかっています。トランプが仕掛けたあの米中貿易戦争では、中国製品に高い関税を掛けました。中国はかなり強い抵抗を示しましたが、結局高関税の制裁を科すと、自国民が高い製品を買わざるを得ず、関税分を負担することになります。

 

加えて中国製品の供給が追い付かなくなります。それでどこか安い関税の国、あるいは国産でその分を補えるかというと、なかなか難しい。サプライチェーン問題がクローズアップされましたが、スマートフォンの電子部品からマスクに至るまで、急に中国以外から調達するといっても難しいわけです。だからモノに対して制裁したところで、それは自分で自分の足を撃つ結果になっている。

 

それでは金融制裁をやりましょうと、簡単にはいかない現実があります。国際金融市場が大混乱になるからです。国際金融市場で取引される外貨建て債務証券の発行引き受けや売買は、日米欧の金融資本の収益を支えています。ちなみに中国はそこで対外ドル負債の急増に支えられながら、楽々と対外膨張戦略を遂行しています。そして日米欧の金融資本は収益源を対中債権にますます求める悪循環です。

 

もうひとつ注目すべきは世界の銀行ランキングです。アメリカの信用格付け会社S&Pが今年(2021年)4月にまとめた「世界の大手銀行100行」によると、銀行の規模を示す総資産のランキングで中国の四大国有商業銀行(中国工商銀行、中国建設銀行、中国農業銀行、中国銀行)が1位から4位までを独占しています。さらに新型コロナの影響でますます大きくなっています。つまり、これらが国際金融市場で債券発行をどんどん増やしているということです。

 

要するに世界の金融市場に占める中国のシェアが非常に大きいのです。そうなると、金融制裁の実施は中国の大手銀行にぶつかります。もし中国の大手銀行に対して、香港ドルとアメリカドルの交換を全面的に禁じると、国際金融市場が大パニックになります。だから効果的だとわかっていても、金融制裁はおいそれとできない。

 

では、もう手の打ちようがないのかというと、そんなことはないと思います。

 

例えばアメリカが「やるぞ」と威嚇したり……とにかくそういうことで、中国を牽制する方法はあるはずです。

 

とくに香港の人権侵害に関しては、アメリカ自身、トランプ政権下で香港自治法を成立させています(2020年7月)。同法には香港ドルとアメリカドルの交換を見直す、場合によっては禁止するという条項があります。アメリカはそれを口に出すべきです。それによって全面禁止ということでなく、多少余地を残すこともできます。一部の中国の銀行大手だけを対象にしてもいい、やりようはいくらでもあると思います。

 

田村 秀男
産経新聞特別記者、編集委員兼論説委員

 

 

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本連載は田村秀男氏の著書『「経済成長」とは何か?日本人の給料が25年上がらない理由』(ワニブックスPLUS新書)の一部を抜粋し、再編集したものです。

「経済成長」とは何か?日本人の給料が25年上がらない理由

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田村 秀男

ワニブックスPLUS新書

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